望みゼロな憧れ騎士団長様に「今夜は帰りたくない」と、良くわからない流れで言ってしまった口下手令嬢に溺愛ブーストがかかってから

『違うわよ! マチルダ様がハビエル様のことを、常に見張らせているらしいの』

「ふーん……では、それはあまり、意味はないと思うよ。影に僕らを見張る余裕はない」

 お茶のカップを持ち直したエリアスは、涼しい顔をして肩を竦めた。

 ……どうしてだろう? 近くに私たちの会話を盗み聞く、隠密集団が居るかもしれないって、私が言っているのに。

 けれど、このエリアスが言葉の意味が、わかっていない訳がないと思う。

「……どうして、そう思うの?」

 私が恐る恐る声を出して聞けば、エリアスは小さく息をついて言った。

「優秀な諜報員しかなれない『王家の影』の数は、限られている。マチルダ様は自分の警護用の『影』を自分の我儘で使ってハビエルに張り付かせているのだろうが、彼を四六時中見張るとなれば、シャーロットなんか気にしているわけはないと思うね。特に自分が怪しまれるような事をした後だから、今は彼本人の方へとピッタリと張り付いていることだろう」

「……随分と、詳しいのね? エリアス」

 何故かエリアスは『王家の影』について、やけに詳しい情報を持っているようだ。