目を泳がせていると、副社長がやや傷ついたような表情になって見つめてくる。

「そんなに嫌か? 業務以外で俺と一緒にいるのは」
「いいえ! 決してそういうわけでは!」

 嫌なわけがない、むしろ嬉しいです!と、即座にぶんぶんと首を横に振った。
 いつもドーベルマンさながらの強さを湛えているくせに、急に耳を垂れたようにしゅんとするのはやめてほしい……かわいすぎます。
 心の中で悶えるも、気を落ち着かせて確認する。

「逆に、副社長はいいんですか? こんなところに私とふたりでいて」

 誰か知り合いがいないか、さりげなく辺りを見回して言うと、彼は眉根を寄せて首を傾げる。

「どういう意味だ。今日はもう用事はないぞ」
「そうじゃなくて。だって副社長には──」

〝婚約者がいるじゃありませんか〟と、喉元まで出かかった言葉を呑み込んだ。
 副社長には、以前から決められた結婚相手がいると秘書課では有名で、私が恋心を抑えている理由もそれだ。
 浅霧家の当主は彼の伯父であり、直系ではなくとも一族であることに違いないのだから、良家の女性との結婚が望まれるのは致し方ないだろう。わが社のトップで、副社長の従兄である春路(はるみち)さんも、すでに政略結婚をしているし。