「なんにも力になれなくてごめんね。くれぐれも深酒しないようにね。とりあえず紗雪ちゃんが望んでいないなら、私も円満に破談にできるよう願うわ」

 そう言って手を振る彼女に、私も微笑み返して会釈をした。彼女を見送りカウンターに向き直った私は、ひとりグラスを傾けてしばし物思いにる。
 高校卒業と同時に憧れの東京にやってきて、こちらに定住するつもりだったのに、結婚させられたらそうもいかない。人生うまくはいかないなと盛大なため息をつき、テーブルの上で組んだ腕に顔を伏せる。

「ほんと最悪。これで帰ったら、もう一生出られない気がする……」
「刑務所にでも入るのか」

 ひとりごちる私の頭上から、突然低く滑らかな声が響いてきた。バッと振り仰いだ瞬間、私はこれでもかと目を見開く。
 そこにいたのは、二次元の世界から飛び出したような凛々しく綺麗な顔立ちに、長めの前髪をかき上げたヘアスタイルがセクシーな男性。私が毎日そばでお仕えしている高貴なお方……!

「随分やさぐれてるやつがいると思えば、まさか牧原(まきはら)だったとは」
「ふ、副社長っ!?」

 若干引き気味に声をあげてしまった。完全にオフの、しかも腐っている時に、彼に会ってしまうなんて……。