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 多くの人が羽を伸ばす華の金曜日の午後八時、私は絶望の淵にいた。

 六本木のとあるバーにて。カウンターテーブルでうなだれる私は、バーメイドがグラスにカクテルを注ぐのをぼんやり見つめながら、先ほど母から来た電話を思い返す。

小早川(こばやかわ)さんから連絡が来たの。息子さんと紗雪(さゆき)をお見合いさせたいって……』

 申し訳なさそうな声で告げられたそれは、私にとっては監獄行きを宣告されたようなものだった。
 小早川さんとは、私の地元の大地主であり現町長である。まだ結婚していない彼のひとり息子との縁談を持ちかけてきたらしい。
 二十五歳の私は年齢的にちょうどいいのかもしれないけれど、あの町出身の同年代の未婚女性は、少数だとはいえ私以外にもいるのに……!

「なんで私……!?」
「気持ちはお察しするわ。ほら、とりあえずこれ飲んで落ち着きなさい。カクテル言葉が〝元気を出して〟だって、さっき聞いたでしょう」

 頭を抱える私に、隣に座る上司の奈宮(なみや)さんが苦笑しつつシャーベット状の白いカクテルを差し出した。