ちびっこ息子と俺様社長パパは最愛ママを手放さない

「地元の権力者の息子と見合い、か……。この時代でも意外とあるんだよな、そういう縁談」

 ご自身もそうですもんね……と心の中で相づちを打つと、彼が飲み終わったグラスを静かに置いて言う。

「決められた相手との結婚が嫌なのはわかる。でも、それで地元から出られなくなるっていうのは極端じゃないか?」

 そう、普通ならそんなことはない。普通なら。

「私、玻璃ノ島(はりのしま)っていう小さな離島の出身で。島全体がひとつの町なので、とても閉鎖的なんです。移住者はあまり歓迎されない空気がありますし。あそこを出て暮らす人はなかなかいなくて、私みたいに都会へ出ても、結婚で島に帰って一生を過ごす人がほとんどです」

 昔は外の人との結婚は許されなかったらしく、その慣習がなくなった今でも島民同士で結婚したり、女性はお婿さんをもらったりして島で暮らすのが暗黙のルールのようになっている。
 両親や祖父母に限らず、島全体がそういう考えになっていると、特に疑問を抱かない人も多い。私のように、島外で暮らしたいと考える人のほうが少数派なのだ。

 これは田舎ならではの空気で仕方ないことだと思うけれど、もうひとつ別の懸念がある。