ちびっこ息子と俺様社長パパは最愛ママを手放さない

『簡単には言えないような、複雑な思いを秘めているのかもしれません。親身に話を聞いてあげたほうがいいんじゃないでしょうか』

 そう訴えたものの、上司たちは当然ながら、私のようなただの事務員の意見など聞こうとはしなかった。
 ところが、大きめのプロジェクトだったため様子を見に来た、副社長就任を目前にした彼が、私に向かってこう言い放った。
『じゃあ、その役目は君に頼む。ここにいる誰よりも、心を開くのがうまそうだ』と。
 恐れ多かったけれど、次期副社長の頼みを拒否することなどできないし、期待してもらえたことが光栄で、私は男性と話すことにした。
 その結果、彼はなんとか打ち明けてくれて、その広場に深い思い入れがあることが判明。その後の工事も、副社長が彼の思いを汲み取った形にして進めてくれたのだ。

 後日、副社長はわざわざ私のもとへ来た。

『君のおかげで、一番いい形で話をまとめることができた。目に見えない、大事なことに気付いてくれてありがとう』

 お礼を言われて微笑まれた瞬間、恐縮しまくると同時に、心の中で一気に花が開くような温かさや感動を覚えた。
 彼ほど立場が上の方が、こんな末端の事務員の意見を受け入れ、感謝を伝えてくれるなんて。
 それに、たったひとりでも気持ちを蔑ろにしない真摯な姿勢に、人としてなんて素敵なのだろうと思わずにはいられなかった。