ここまで言われたら、逃げる気は失せていく。少し遠慮しながらも、「……では、お言葉に甘えて」と頬を熱くして元の席に戻った。
普段とはまったく違う感覚で彼の隣に座り、彼を意識し始めた時のことをふと思い出す──。
まだ秘書課に配属される前、開発部の事務をしていた頃から、私は副社長への淡い憧れを抱いていた。
当時、荒川区での再開発事業を進めるにあたって住民説明会が開かれ、私も会場の準備や受付を手伝うために出向いていた。
説明会の様子も実際に見ていたのだが、ほとんどの方が納得している中、ひとりだけずっと『広場は絶対に潰すな』と反対する年配の男性がいた。
特別な理由はなく、ただ『ダメだ』の一点張りだったので、部長たちは『長年住み続けてきた年寄りの意地みたいなものだろう』と、重要視はしていなかった。そういう人もわりといるらしい。
しかし、他の住民にさりげなくその男性について聞いてみると、『気難しいところもあるけど情に厚くて、曲がったことが嫌いな人』と話していた。
なんの理由もなく反対するような人ではないのでは、と漠然と感じたので、ダメもとで上司たちに意見してみたのだ。
普段とはまったく違う感覚で彼の隣に座り、彼を意識し始めた時のことをふと思い出す──。
まだ秘書課に配属される前、開発部の事務をしていた頃から、私は副社長への淡い憧れを抱いていた。
当時、荒川区での再開発事業を進めるにあたって住民説明会が開かれ、私も会場の準備や受付を手伝うために出向いていた。
説明会の様子も実際に見ていたのだが、ほとんどの方が納得している中、ひとりだけずっと『広場は絶対に潰すな』と反対する年配の男性がいた。
特別な理由はなく、ただ『ダメだ』の一点張りだったので、部長たちは『長年住み続けてきた年寄りの意地みたいなものだろう』と、重要視はしていなかった。そういう人もわりといるらしい。
しかし、他の住民にさりげなくその男性について聞いてみると、『気難しいところもあるけど情に厚くて、曲がったことが嫌いな人』と話していた。
なんの理由もなく反対するような人ではないのでは、と漠然と感じたので、ダメもとで上司たちに意見してみたのだ。



