俺が、私で、アイドルで - 秘密を抱いてステージへ

 ガラス張りのオフィス。観葉植物と白いソファが並ぶロビーに、瞳は少し居心地悪そうに腰掛けていた。
 やがて、スーツ姿の男――渋谷で声をかけてきたスカウトマンが姿を現す。

「来てくれてありがとう。合格おめでとう」
「……あ、どうも」

 奥の小さな会議室に通される。壁には歴代所属タレントのポスターが飾られていて、どれも見覚えのある顔ばかりだ。

「これからの流れを説明するね。まずは合格者同士での合同練習。最終的にデビューできるかどうかは、そこでの実力と適性次第だ」

 瞳は相づちを打ちながらも、どこか夢の中にいるような気分だった。

「それと……大事なことがある」
 スカウトマンの声が少しだけ硬くなる。
「未成年の契約には、必ず保護者の承諾が必要なんだ。正式に活動を始める前に、お母さんと一度お話ししたい」

「……母と」

 胸の奥が重くなる。
 母に秘密で応募したことを思い出す。笑って許してくれる姿は、どうしても想像できなかった。

「心配はいらないよ。もちろん僕らがきちんと説明する。芸能活動を続けるかどうかを決めるのは、君と家族だ」

 瞳は小さくうなずいた。

 ――夢みたいな話が、現実に近づいてくる。
 ――けど、それを一番認めてもらいたい人に、どう切り出せばいいんだろう。