俺が、私で、アイドルで - 秘密を抱いてステージへ

 夕暮れの公園。オレンジ色の光が作る影がアスファルトに伸びている。
 瞳は助走をつけ、デッキを蹴り上げた。板がふわりと浮く。――オーリー、そこからキックフリップ。
 だが着地がずれ、デッキが足から逃げていった。

「っとと……!」
 そのまま尻もち。ジーンズに砂埃がついた。

「おい、どんくせーぞヒトミ!」
 ベンチに腰かけていた壮馬が笑いながら手を叩く。ポテトチップスの袋がガサガサ音を立てた。

「……ちょっとズレただけだから」
 瞳は照れ隠しのように呟き、デッキを拾い上げる。

「飲め」
 楓が自分の缶コーラを差し出す。瞳はひと口含み、炭酸の刺激に眉をひそめた。

「で? オーディション、どうなった」
 楓がさらりと切り出す。

 瞳は無言で缶を見つめた。数秒の間を置き、小さく言った。
「……受かった」

「は?」
 壮馬の目が丸くなる。手にしていたポテチが地面に散らばった。

「合格した。合同練習に来いってメールが……」

 一瞬の静寂。次の瞬間、壮馬が大声を上げて笑い始めた。
「マジかよ! お前、ほんとに男子アイドルになるのか!? ウケる! いや最高じゃん!」

 楓は肩をすくめつつ、にやりと笑う。
「……まあ、似合ってるかもな。女子より男子のほうが」

「やめろって」
 瞳は顔をしかめ、デッキを足元で転がす。ゴロゴロと車輪の音が、なぜか胸をざわつかせた。

 ――どうせ落ちると思ってた。
 ――でも、現実に“次”がある。

 スケボーを抱え直し、瞳は夕暮れの空を仰いだ。
「……まあ、行くだけ行ってみる」

 声に出した瞬間、心の奥が熱を帯びる。怖さと、期待と、まだ名前のつかない感情が入り混じって。