俺が、私で、アイドルで - 秘密を抱いてステージへ

 音楽番組の収録が終わったあと、楽屋の前の廊下でECLIPSEと鉢合わせた。
 篠崎 樹がニヤリと笑う。

「いやあ、今日も“綺麗”だったな。レイ」
 わざと強調するような言い方に、橘 隼人が続ける。
「中性的ってやつ? まあ人気出るのもわかるけど」

 スタッフが笑い、廊下の空気が軽くざわめいた。
 ユウキが眉をひそめかけたのを、アオトが短く制する。
「行くぞ」

「特に意味はない。ただの感想だよ」
 神谷 晃が低く付け足す。

 その横で、海斗だけが「おい、やめとけ」と小さく制した。
 だがECLIPSEの背中は、挑発の匂いを残したまま遠ざかっていった。

 胸の奥に冷たい針が刺さったようで、瞳は拳を握りしめた。
 笑って受け流すしかなかったけれど、足元の力が抜けそうだった。

   ◇◇

 夜。練習を終えてスタジオを出ると、蒼が後ろから声をかけてきた。
「……気にするな」

 足が止まる。
 街灯に照らされた蒼の横顔は、いつも通り冷静で、それでもどこか柔らかかった。

「噂だろうが、挑発だろうが関係ない」
 蒼はまっすぐ瞳を見る。
「お前が気にするべきは一つだけだ。ステージで何を届けるか。それだけだ」

 蒼の言葉は、夜風よりも冷たく、けれど確かに胸の奥に届いた。
 瞳は目を伏せ、深く息を吸う。

 ――そうだ。私が迷ってどうする。
 ――舞台に立つと決めたのは、他でもない私自身なんだ。

「……うん。わかった」
 返した声は震えていなかった。

 街灯の下で、蒼がわずかに頷いた。
 その仕草だけで、背中を押された気がした。

 拳を握る。
 ――私は、逃げない。
 ――レイとして、アイドルとして、やり切る。