俺が、私で、アイドルで - 秘密を抱いてステージへ

 練習を終えて帰宅した夜。
 ベッドに倒れ込み、何気なくスマホを開いた。通知の数が異様に多い。

 SNSの検索窓に「Bluebell Boys」と打ち込む。
 画面が一気に流れ出す。

「レイくんの声、透明感すごい」
「喋り方が穏やかで癒される」
「なんか女の子みたいに綺麗だよね」

 スクロールするたびに似たような言葉が目に入る。
「女の子みたい」
「女子って言われても信じる」
「むしろその中性的な感じが推せる」

 指先が止まった。
 ――褒めてる。けど。
 ――まっすぐすぎて、胸が痛い。

 スマホを裏返して、布団に顔を埋める。
 汗で少し湿った髪が頬に張り付く。

 ――秘密は、まだ守れてる。
 ――でも、これ以上広がったら……。

 胸の奥に、じわりと冷たいものが広がった。

   ◇◇

 翌日の練習終わり。
 汗を拭いていたレイの前に、スマホの画面が差し出された。

「なーなー! レイ、これ見た?」
 ヒナタがにやにやしながらSNSの投稿を見せてくる。
『レイくん、女の子みたいに綺麗』『声高いのに力強くてやばい』

「ほらほら、“女の子みたい”だって!」
 ヒナタは楽しそうに笑う。

「……くだらん」
 ユウキがタオルを首に掛け、淡々と口を挟む。
「中性的なビジュアルはアイドルとして武器だ。珍しくもない」

「でもさ、ネットってそういうの好きじゃん? こうやって話題になるのは悪くないっしょ」
 ヒナタは肩をすくめる。

 レイ-瞳は、どう答えていいかわからず固まっていた。

 ユウキは黙って水を飲み干し、短く言った。
「気にするな。人気が出てる証拠だ」

 ――そう言ってくれるのはありがたい。
 けど胸の奥がざわついて、素直に頷けない。

「……おい」
 アオトの声が低く響いた。
「ネタにしていいことと、そうじゃないことがある」

 ヒナタがきょとんと目を丸くする。
「え、俺、悪気は――」

「わかってる。だが、もう少し考えて口を開け」
 アオトは視線を外さない。鏡越しに、レイをじっと見ていた。

 心臓が跳ねる。
 ――この人は、知ってる。
 ――だから、この眼差しになるんだ。

 言葉にできず、レイはただ視線を落とした。