俺が、私で、アイドルで - 秘密を抱いてステージへ

 最近、蒼の視線を感じることが増えた。
 歌のリハーサルで声を伸ばすとき、衣装合わせのとき、振り返るといつも彼の目がこちらをじっと追っていた。
 ――気のせい。そう思い込もうとした。

 その日も、振付師のカウントに合わせて全員でジャンプを繰り返していた。
「もっと高く! 揃えて!」
 リズムに合わせ、足を弾ませる。三度目のジャンプで、着地に失敗した。

「っ……!」
 足首がぐきりと傾き、体が横に倒れる。視界が揺れた。

 次の瞬間、腕をつかまれていた。
「危ない!」
 蒼が抱きとめるように支えてくれていた。

 腕を回され、脇を支えられた。
 瞳は息を呑んだ。
 ――まずい。

 蒼の腕が一瞬だけ固まる。手首を掴んだ彼の指先がわずかに震えた。
 瞳は顔を背け、すぐに立ち直ろうとする。
「……平気。大丈夫」

 けれど蒼は、低い声で言った。
「お前……」
 その言葉の続きを飲み込むように、唇を閉ざす。

 視線が絡む。問い詰めるでもなく、笑うでもなく。
 ただ、何かを理解してしまった目。

「……誰にも言わない」
 小さいけど、はっきりとした声。
「心配するな。俺が守る」

 瞳の胸が熱くなった。
 ――バレた。終わった。そう思ったのに。
 ――どうして、この人の目は、こんなにまっすぐなんだろう。

   ◇◇

 蒼に支えられた腕をそっと離すと、振付師の声がすぐに飛んできた。
「何やってんだ、立て! 続けるぞ!」

 音楽が再び流れ出す。
 瞳は足首の痛みをこらえ、ステップに戻った。

 ――バレた。
 胸の奥でその言葉が何度も反響する。
 視線を上げるたび、鏡越しに蒼の姿が映る。無表情に見えるのに、どこか守るような距離感で隣に立っていた。

 カウントに合わせ、体が動く。汗が飛ぶ。
 けれど、心臓の鼓動だけは音楽よりも早かった。

 ――秘密を知っているのは、もう私だけじゃない。
 ――そして、それを抱えたまま、ステージに立つんだ。

 曲が終わり、鏡の中で息を整える自分と目が合った。
 その横で、蒼が短く頷く。
 何も言葉はない。ただ、それだけで、もう一度前に踏み出せる気がした。