俺が、私で、アイドルで - 秘密を抱いてステージへ

 夕方の公園。ランプの上で、楓がスケボーを蹴り出した。
 ボードが宙を舞い、つま先でひねる。――キックフリップ。
 だが着地に失敗し、派手に転んだ。

「いってぇ……」
 膝を押さえてうめく楓を、壮馬が笑い飛ばす。
「へたくそ。何回目だよ」

「うるせえ。次は決めるから」
 楓は苦笑しつつ、再びデッキを拾い上げた。

 ベンチに腰を下ろしていた瞳は、水筒を口に運ぶ。
 ――こんな時間が、やっぱり落ち着く。

 だが、壮馬の笑いは長く続かなかった。
「……なあ、ヒトミ」
 声色が急に真剣になった。

「学校でも言われてんだろ。お前、あの“レイ”に似てるって」

 瞳は返事をせず、足元の砂利をつま先で蹴った。
 楓がトリックに挑みながら、ちらりと横目でこちらを見ている。

「俺も最初は面白がってた。男子アイドルとかマジかよって」
 壮馬は拳を膝に置き、言葉を続ける。
「でも、もう笑い話じゃ済まなくなってきてんだよな。ネットでも名前ちょこちょこ見かけるし。バレたら……やばいだろ」

 瞳は口を開きかけて、また閉じた。
 ――わかってる。

 壮馬は瞳をまっすぐ見た。
「俺たちはお前の味方だ。何があっても。なあ、楓」

 トリックを決められずに地面に転がっていた楓が、苦笑しながら親指を立てる。
「まあ、ヒトミがヒトミである限りは、な」

 夕暮れの風が少し冷たくなっていた。
 瞳は、無言でうつむき、唇をかみしめた。