セドリックは、リズに自分が女嫌いである事とその理由を打ち明けた。
きっとリズは一体なんの告白だと困惑しているだろう。だがそれでも彼女に話を聞いて貰いたいと思った。
「それから僕は女性嫌いになった。女性と近くで話すくらいなら我慢は出来るけど、触れられると息苦しくなったり身体中に発疹が出来る」
腕を捲り上げそれを見せた。
変わらず赤くなり発疹が出来ている。
それを見たリズは、一瞬目を見張り険しい表情になった。
「実は今宵の舞踏会で、ある令嬢に抱きつかれて気分が悪くなってしまったから早く帰宅したんだ。……はは、リズも情けないって思うだろう?」
今も尚トラウマは続いている。
あれから六年も経ち、それに未遂だった。
もう立ち直らなくてはならないと分かっている。
女性に襲われたなど情けなく恥ずべき事で、トラウマになるような話ではないだろう。
事件の真相を知る者は少ない。
体裁もある為、伯爵家の爵位剥奪も適当な罪状で行われた。
そんな中、真相を知る大人達の中には陰で事件を大袈裟だと言う者もいた。
「どなたが、そんな事を仰ったのですか」
てっきり同情され内心では呆れられると思っていた。だがリズの反応はあまりにも意外だった。
いつも冷静で穏やかな彼女。そんな彼女の顔は怒気を孕んでいた。声も心なしかいつもより低く響いている。
「……事件の真相を知る人間はきっと皆思っている。でも、事実だから仕方がないよ」
セドリック自身だって思っているのだから当然だと自嘲の笑みを浮かべた。
「セドリック様。人の痛みを馬鹿にするような愚かな者の言葉に、耳を傾ける価値などありません」
「っーー」
彼女は凛としており、その眼差しは強く目を奪われるくらい美しかった。
確かにリズなのにリズじゃないとさえ思えた。
「……申し訳ありません。出過ぎた事を申しました」
だが直ぐにいつもの彼女に戻った。
「余計なんかじゃない。そんな風に僕の為に怒ってくれて嬉しいよ。リズ、ありがとう」
「いえ、お礼を言って頂くような事では……」
「そんな事はない。それに、リズに話を聞いて貰えて良かった」
心からそう思う。
彼女は情けないと呆れる事も、大変だったと哀れむ事もせずに、セドリックの為に怒ってくれた。
その瞬間、ずっと一人で抱えていたやるせない思いが薄らいで心が軽くなった気がした。
「リズが淹れてくれたお茶が飲みたい」
落ち着いたら急に喉が渇いた。
「承知致しました。では直ぐに淹れてきます」
「そうだ、リズ」
「はい」
「二人分、用意してくれる?」
暫くしてリズがお茶を手に部屋へと戻ってきた。
ちゃんとトレーには二つカップが並んでいる。
「就寝前ですので、カモミールティーに致しました」
「ありがとう。うん、いい香りだ」
リズからカップを受け取り香りを確かめると、彼女はまた先程と同じ場所に座りカップに口をつけた。
ベッドに腰掛けお茶を飲むのは正直あまり褒められた事ではないが、こういうのも悪くないと思った。
その後、お茶を飲み終えるとリズが就寝の準備を始める。
いつもジルかソロモンがやっているので、妙な感じがした。
「リズ……あの」
「どうかなさいましたか?」
セドリックがベッドに横になるのを見届けたリズは部屋から出て行こうとしたが、声を掛け引き止める。
「……僕が眠るまで、側にいてくれる?」
心身ともに弱っているからか、気付けばそんな事を口にしていた。
彼女が行ってしまうのが無性に寂しく感じてしまった。
「やっぱり、今のは聞かなかった事にして!」
だが急激に恥ずかしくなり、セドリックはリズに背を向ける。
「大丈夫ですよ。セドリック様がお眠りになるまでお側にいます。お休みなさいませ」
「お休み、リズ……」
耳に馴染む心地良い声と気配を感じながら、セドリックは目を閉じた。



