「……それは構いませんが、でもあなたの素性を明かすわけにもいきませんし、明かした所で誰も信じないでしょう。どうするおつもりなのですか?」

 未来から来たアリシアの夫だと言った所で、頭のおかしい奴だと通報されるか不審者として捕まるかのどちらかだろう。

「そうだな、父上をうまいこと言いくるめよう。父上はアリシアに甘いだろ。アリシアの言うことならたいていのことは聞いてくれるはずだ」

 確かにアリシアの父親はアリシアに甘い。娘はアリシア一人ということもあり、アリシアの願いはほぼなんでも叶えてくれている。
 だからと言って、フレデリックをこの屋敷に置くことなど可能だろうか?

 そんな風に思っていたが、いとも簡単にそれは可能になってしまった。

 フレデリックの言うとおり、アリシアの父親はアリシアの言うことは疑問にも思わず簡単に聞いてしまったのだ。

 フレデリックのシナリオはこうだ。フレデリックは未来でのこの国の騎士服を着ている。現在にはまだない騎士服だが、これを実は秘密裏に動いている陰の騎士団の制服ということにする。騎士であればアリシアの父親もそこまで怪しむことはないはずだ。
 さらに、未来のフレデリックは現在のフレデリックの親戚ということにして、縁談を進めるにあたりアリシアの護衛として現在のフレデリックから送られてきたということにした。

 これが果たして信じてもらえるのかとアリシアは不安に思ったが、アリシアの父親はアリシアの言うことを全て信じてしまった。

「本当に信じてしまうだなんて……」
「やっぱりアリシアの父上はアリシアに甘すぎるな」

 父親との話が終わり、フレデリックは正式にこの屋敷で住めることになった。
 クツクツと楽しそうに笑うフレデリックを、アリシアは諦めにも似た顔で見つめる。

「でも、あなたがフレデリック様の親戚というのはすぐにバレてしまうのではないですか?」

 現在のフレデリックと父親が会い話をすれば、未来のフレデリックについて現在のフレデリックがそんな人間は知らないと言ってしまうだろう。

「まぁ、それについては俺に考えがある。顔合わせは明後日なんだよな」
「そうです。……ってまさか、フレデリック様にお会いするつもりですか!?」
「フレデリック様、って、俺もフレデリックなんだけどな?」

 少し悲しげに眉を下げてフレデリックは微笑む。

(確かにそれはそうなのだけれど……どうお呼びすればいいのかわからないわ)

 戸惑うアリシアにフレデリックは言った。

「父上に言った通り、俺の名前はフレン・ヴァイダーということにする。だからフレンと呼んでくれ」
「フレン、様……」
「懐かしいな、未来では俺は君にフレンと略称で呼ばれているんだ」

 フッと嬉しそうに笑うフレデリック、もといフレンを見て、不覚にもアリシアはときめいてしまう。だがときめいている場合ではないと首をブンブンとふって、これからどうなるのだろうかと不安げにフレンを見た。