カラーズ

「アカネ! いるんでしょ! 出てきて! 別に怒りにきたんじゃないから! 今出てこなかったら、次に顔出すのもっと大変だよ! アカネ!!」

 ミドリちゃんがインターフォンに向かって大声で言う。近くを通った自転車のおじさんも何事かと、こちらを振り返っている。

 ミドリちゃんが再度インターフォンのボタンに手を掛けたとき、ガチャッとドアが開いた。そこには、目を腫らしたアカネちゃんが立っていた。

「先に上がってて」

 アカネちゃんは小声でそう言った。私たちは2階のアカネちゃんの部屋へと、静かに上がっていく。そして少しして、冷えた麦茶のボトルとグラスをお盆に載せたアカネちゃんが入ってきた。

「ありがと。あとは私がやるね」

 アオイちゃんはグラスにお茶を注いで、一人一人に配っていった。


 誰が最初に口火を切ってくれるのだろう。

 きっとみんな、ミドリちゃんだと思っている。しかし、そのミドリちゃんも、どう切り出せばいいのか悩んでいるようだ。

 そしてしばらくの時間が経った頃、ミドリちゃんが口を開いてくれた。

「アカネが何やったとか、細かいところまで問い詰めようとは思ってないの。まず、どうしてそんなことをしちゃったのか、聞けたらなって。——モモカはどう?」

 ミドリちゃんに対し、モモカちゃんが「うん」とうなずく。

「ミドリちょっと待って。私はアカネがモモカをはめようとしてたのなら、まずはキッチリ謝らないと嫌。そこはちゃんとして欲しい、絶対に」

 アオイちゃんのこんな厳しい顔、初めて見た。アカネちゃんは、怯えるような目でアオイちゃんを見る。

「みんなを騙しただけでも大問題なのに、モモカを犯人に仕立てあげようとしたんだよね!? こんなの、友だちって言える!? どうなのよ、アカネ!!」」

 アオイちゃんは、そう言って畳み掛けた。

 ふぅうう、ふぅううと声を上げて、アカネちゃんは泣き出した。

「ごっ、ごめんなさい……本当にごめんなさい……わっ、私、モモカが……モモカが、カラーズからいなくなればいいって思ったの。だって、モモカが来る前のカラーズは、本当に楽しかった。アオイとスミレ、そしてミドリと私……いいバランスだったのに、いつしか私だけはみ出しちゃって……」

 アカネちゃん、そんな目でモモカちゃんを見ていたんだ……

 アオイちゃんもそれを聞いて驚いてる様子だったけど、ミドリちゃんとモモカちゃんはそのようには見えなかった。

「私、本当は気づいてた……アカネがミドリに対して一番の親友だと思ってることや、私が邪魔してる形になってるってことも。——なのにね、私ったら、アカネからミドリを奪った気になって、いい気になってたとこあると思うの……原因は、きっと私なんだよ。ごめん、アカネ……」

 アカネちゃんは下を向いたまま、モモカちゃんの言葉に激しく首を横にふる。「悪いのは私の方だ」そう、言いたいかのように。

「私もね……アカネのそういう気持ちに気づいてなかったって言ったら、嘘になる。もっと早く、私から声をかけるべきだった……ごめんね、アカネ……」

 そう言ったミドリちゃんの顔を見て、アカネちゃんが口を震わせる。

「ね、ねえミドリ……こ、今回のこと……最初から私がやったことだって思ってた……?」

「そんなわけないじゃない。きっと、ここにいるみんなだって、そんなこと思ってないよ」

「ほ……本当に……?」

「本当に」

 ミドリちゃんがそう答えると、アカネちゃんは皆の顔を見回した。

 あれほど怒っていたアオイちゃんも、アカネちゃんと目が合うと「うん」と頷いた。

 アカネちゃんは顔をクシャクシャにしてうずくまり、声を上げて泣いた。


***


「じゃ、これからどうすればいいか、みんなで考えよう。まず、アカネは学校に行ったら平原に謝ってあげて。このままじゃ、モモカが悪者になっちゃう」

 アカネちゃんが落ち着いたように見えたのか、ミドリちゃんがそう言った。アカネちゃんはヒックヒックとしゃくりあげながら、コクリと頭を下げる。

「私も一緒にアカネと謝るよ。そもそも、ミドリとアカネに言っちゃったのは私なんだし」

 モモカちゃんのその言葉に、アカネちゃんは再びその場にうずくまってしまった。