二年後、ルヴァイン王国で魔獣暴走が発生し、カーク・ダンフィルが英雄に選ばれた。正騎士の叙任の場でソフィア王女は彼に聖剣を授け、王都から送り出した。
入団式以降、カーク・ダンフィルの動向を窺って騎士団にも出入りしていたユリウスは、当然ながらエステル王女と彼の関係にも気づいていた。だからカーク・ダンフィルの行動を制限せず、わざわざソフィア王女と引き離すようなこともしなかった。
魔獣暴走をの発生を受けて、前年に引退した前宰相補佐に代わってその地位に就いていたユリウスは、ソフィア王女とともに対策本部に詰め、この国難に対処した。あれほど願ったソフィアの傍での初仕事が魔獣暴走対応ということもあって、彼の力量が相当に問われる事態となったが、ぎりぎりまで自分を酷使するソフィア王女と国を全力で支え切り、ついに魔獣の王が倒されたという知らせを受け取った。
英雄の無事の帰還と魔獣暴走の収束を、自分ほど強く願った男もいないだろう。凱旋を果たしたカーク・ダンフィルがエステル姫を褒賞に望むことは容易に想像できた。そう世論が動くように仕掛けをしたのはユリウス自身だ。仕掛けたのは事後処理の話だけではない。討伐隊が出発してから常に現地の動向に敏感でいたユリウスは、王都にいながらにして現地の壊滅ぶりも老いた領主の一人息子が命を落としたことも、真っ先に把握していた。
状況が動く度に布石を打った。四年前、己の決意改めたその日から、国内外で巧妙に蒔いてきた噂の種はするすると地を覆い尽くすまでに育ちきり、ユリウスが愛する人を絡め取ろうとしていた。
だが最後の最後で、ユリウスが抱いていた仄暗い思いが、ほんの少しだけ揺れた。
単なる気まぐれか、なけなしの温情のつもりか、ユリウス自身にも計りかねる思い。
ソフィアの婚約者候補として宰相の推薦を得ることはできたが、候補は彼以外にも数名いた。ただし自分が最有力だということは、両陛下に呼び出され直接問われたことからもわかっていた。
「決定はソフィア様に委ねたいのです。……ただ、もし王太女殿下が選択を両陛下に任せるとおっしゃるなら、私に異存はありません」
彼女自身が候補者を見て、そこにユリウスの名前があることを知って、その上で他の者を選ぶなら、そのときは潔く諦めようと、そう思ったのだ。
だがソフィア王女は自分で選ぶことを拒んだ。
「ご自分で選ばなくてよろしいのですか」
出ていった宰相を追いかけ、やっぱり自分で選ぶことにすると彼女が意見を覆し、結果を改める。それが、彼女がユリウスから逃れられる、最後のチャンスだったのに。
「……えぇ。問題ないわ。父と宰相閣下にお任せしていれば間違いはないでしょう。大切なのはエステルとカークの婚姻の方であって、私の話ではないのです」
カーク・ダンフィルへの、恋とすら呼べぬ未熟な思いが、彼女の選択を阻害した。
仮面を被ったまま静かに書類に目を落とす王女を残し、ユリウスは執務室を後にする。廊下を歩きながら、愛しい女性が自分を選んでくれたことに心の底から歓喜していた。
入団式以降、カーク・ダンフィルの動向を窺って騎士団にも出入りしていたユリウスは、当然ながらエステル王女と彼の関係にも気づいていた。だからカーク・ダンフィルの行動を制限せず、わざわざソフィア王女と引き離すようなこともしなかった。
魔獣暴走をの発生を受けて、前年に引退した前宰相補佐に代わってその地位に就いていたユリウスは、ソフィア王女とともに対策本部に詰め、この国難に対処した。あれほど願ったソフィアの傍での初仕事が魔獣暴走対応ということもあって、彼の力量が相当に問われる事態となったが、ぎりぎりまで自分を酷使するソフィア王女と国を全力で支え切り、ついに魔獣の王が倒されたという知らせを受け取った。
英雄の無事の帰還と魔獣暴走の収束を、自分ほど強く願った男もいないだろう。凱旋を果たしたカーク・ダンフィルがエステル姫を褒賞に望むことは容易に想像できた。そう世論が動くように仕掛けをしたのはユリウス自身だ。仕掛けたのは事後処理の話だけではない。討伐隊が出発してから常に現地の動向に敏感でいたユリウスは、王都にいながらにして現地の壊滅ぶりも老いた領主の一人息子が命を落としたことも、真っ先に把握していた。
状況が動く度に布石を打った。四年前、己の決意改めたその日から、国内外で巧妙に蒔いてきた噂の種はするすると地を覆い尽くすまでに育ちきり、ユリウスが愛する人を絡め取ろうとしていた。
だが最後の最後で、ユリウスが抱いていた仄暗い思いが、ほんの少しだけ揺れた。
単なる気まぐれか、なけなしの温情のつもりか、ユリウス自身にも計りかねる思い。
ソフィアの婚約者候補として宰相の推薦を得ることはできたが、候補は彼以外にも数名いた。ただし自分が最有力だということは、両陛下に呼び出され直接問われたことからもわかっていた。
「決定はソフィア様に委ねたいのです。……ただ、もし王太女殿下が選択を両陛下に任せるとおっしゃるなら、私に異存はありません」
彼女自身が候補者を見て、そこにユリウスの名前があることを知って、その上で他の者を選ぶなら、そのときは潔く諦めようと、そう思ったのだ。
だがソフィア王女は自分で選ぶことを拒んだ。
「ご自分で選ばなくてよろしいのですか」
出ていった宰相を追いかけ、やっぱり自分で選ぶことにすると彼女が意見を覆し、結果を改める。それが、彼女がユリウスから逃れられる、最後のチャンスだったのに。
「……えぇ。問題ないわ。父と宰相閣下にお任せしていれば間違いはないでしょう。大切なのはエステルとカークの婚姻の方であって、私の話ではないのです」
カーク・ダンフィルへの、恋とすら呼べぬ未熟な思いが、彼女の選択を阻害した。
仮面を被ったまま静かに書類に目を落とす王女を残し、ユリウスは執務室を後にする。廊下を歩きながら、愛しい女性が自分を選んでくれたことに心の底から歓喜していた。

