魔獣暴走、それはルヴァイン王国の開拓の歴史と密接な関係がある災害だ。この世界には魔獣と呼ばれる存在がいる。通常の獣と違って刃物で斬りつけても時間をおいて再生し、元の形状に戻ってしまう厄介な存在だ。
深い森を根城としていた魔獣たちを駆逐し国を切り開いてきたルヴァイン王国は、彼らからすれば棲家を奪った悪役だ。その恨みの念が晴れないためか、数百年に一度、魔獣の王と呼ばれる存在が息を吹き返し、その数を増やして人間を襲う現象が、歴史上何度も繰り返されてきた。
ただし人間側にも何も手立てがないわけではない。
ルヴァイン王国には魔獣専用となる聖剣が国宝として受け継がれていた。この剣であれば魔獣を斬っても再生することなく、絶命させることができる。ただし聖剣は使用する人間を選ぶ性質があり、英雄と呼ばれる者しか鞘より抜くことはできない。そして英雄は叙任されている騎士の中から現れるというのが通例だった。
魔獣暴走により数を増やした魔獣を、騎士団総出で足止めしつつ、英雄が聖剣で一体ずつ仕留めていく。それを繰り返しながら最奥にいる魔獣の王を引きずり出し、とどめを指す。魔獣の王を殺せばそれ以上魔獣が増えることはない。殲滅が完了すれば、魔獣の王の血は数百年の眠りにつき、聖剣もまた長らくの休息に入る、というのがこの国の言い伝えだ。
魔獣暴走が起こる前には、聖剣が少しずつ発光し始めると言われている。その輝きが最高潮に達したとき、英雄となる者が現れ、鞘から剣を引き抜くことができる。
魔獣の発生の報告と、聖剣が発光し始めた報告と。二つの報告を受けて国王は騎士団に命令を出した。
聖剣を扱う英雄を、何を置いても探し出すようにと。
一ヶ月の後、聖剣は誰もが直視することができぬほどに強い光を発するようになった。
聖剣の準備が整ったことを受け、王立騎士団はまず王都に配属されていた正騎士たち全員に聖剣の抜剣を試させた。だが誰一人として剣を鞘から抜くことはできなかった。
次の手段として、地方に配属されている騎士たちが試すことになる。ただし王国全土に散らばっている騎士を王都に呼び戻すのは困難な話だった。むしろ聖剣を各地に持っていった先で英雄を探す方が早い。
かくして聖剣による英雄探しの旅が計画された矢先、過去の魔獣暴走に関する文献を読み漁って国難に対応していたソフィア王太女が、ひとつの仮説を提唱した。
「叙任は何も、正騎士だけの特権ではないでしょう。准騎士も当てはまります。地方を回る前に、王都にいる准騎士たちにも試してもらった方がいいのではないでしょうか」
広大なルヴァイン王国を回り英雄を探し出すのには途方もない時間と労力がかかる。どんなに急いだとしても三ヶ月を費やすことになる旅の前に、念の為近くにいる准騎士で試すという案は、例え過去の英雄全員が正騎士であったとの記録が残されているにしても、却下するほどの愚策とも言えない。
試すだけ無駄ではと多くの者が思いつつも、そう面倒な話でもない。旅の準備を進めながら、ついでの要領で年若い准騎士たちが聖剣の間に呼ばれ、ひとりずつ抜剣を試みた。
准騎士の中には、二ヶ月後に十八歳の成人を迎える予定のカーク・ダンフィルもいた。
ソフィア王太女の乳兄弟として、彼女を守る剣となることを公言していた彼が聖剣に触れた瞬間、聖剣が纏っていた光が彼の腕を取り巻いた。
渦巻くような光をまとった彼の手は、豪奢な鞘から聖剣をするりと引き抜いた。光をまとった剣と、まだ少年と呼べる面影が抜けきれない准騎士の姿に、その場にいた全員が圧倒される。
ルヴァイン王国に再び英雄が降臨した瞬間だった。
深い森を根城としていた魔獣たちを駆逐し国を切り開いてきたルヴァイン王国は、彼らからすれば棲家を奪った悪役だ。その恨みの念が晴れないためか、数百年に一度、魔獣の王と呼ばれる存在が息を吹き返し、その数を増やして人間を襲う現象が、歴史上何度も繰り返されてきた。
ただし人間側にも何も手立てがないわけではない。
ルヴァイン王国には魔獣専用となる聖剣が国宝として受け継がれていた。この剣であれば魔獣を斬っても再生することなく、絶命させることができる。ただし聖剣は使用する人間を選ぶ性質があり、英雄と呼ばれる者しか鞘より抜くことはできない。そして英雄は叙任されている騎士の中から現れるというのが通例だった。
魔獣暴走により数を増やした魔獣を、騎士団総出で足止めしつつ、英雄が聖剣で一体ずつ仕留めていく。それを繰り返しながら最奥にいる魔獣の王を引きずり出し、とどめを指す。魔獣の王を殺せばそれ以上魔獣が増えることはない。殲滅が完了すれば、魔獣の王の血は数百年の眠りにつき、聖剣もまた長らくの休息に入る、というのがこの国の言い伝えだ。
魔獣暴走が起こる前には、聖剣が少しずつ発光し始めると言われている。その輝きが最高潮に達したとき、英雄となる者が現れ、鞘から剣を引き抜くことができる。
魔獣の発生の報告と、聖剣が発光し始めた報告と。二つの報告を受けて国王は騎士団に命令を出した。
聖剣を扱う英雄を、何を置いても探し出すようにと。
一ヶ月の後、聖剣は誰もが直視することができぬほどに強い光を発するようになった。
聖剣の準備が整ったことを受け、王立騎士団はまず王都に配属されていた正騎士たち全員に聖剣の抜剣を試させた。だが誰一人として剣を鞘から抜くことはできなかった。
次の手段として、地方に配属されている騎士たちが試すことになる。ただし王国全土に散らばっている騎士を王都に呼び戻すのは困難な話だった。むしろ聖剣を各地に持っていった先で英雄を探す方が早い。
かくして聖剣による英雄探しの旅が計画された矢先、過去の魔獣暴走に関する文献を読み漁って国難に対応していたソフィア王太女が、ひとつの仮説を提唱した。
「叙任は何も、正騎士だけの特権ではないでしょう。准騎士も当てはまります。地方を回る前に、王都にいる准騎士たちにも試してもらった方がいいのではないでしょうか」
広大なルヴァイン王国を回り英雄を探し出すのには途方もない時間と労力がかかる。どんなに急いだとしても三ヶ月を費やすことになる旅の前に、念の為近くにいる准騎士で試すという案は、例え過去の英雄全員が正騎士であったとの記録が残されているにしても、却下するほどの愚策とも言えない。
試すだけ無駄ではと多くの者が思いつつも、そう面倒な話でもない。旅の準備を進めながら、ついでの要領で年若い准騎士たちが聖剣の間に呼ばれ、ひとりずつ抜剣を試みた。
准騎士の中には、二ヶ月後に十八歳の成人を迎える予定のカーク・ダンフィルもいた。
ソフィア王太女の乳兄弟として、彼女を守る剣となることを公言していた彼が聖剣に触れた瞬間、聖剣が纏っていた光が彼の腕を取り巻いた。
渦巻くような光をまとった彼の手は、豪奢な鞘から聖剣をするりと引き抜いた。光をまとった剣と、まだ少年と呼べる面影が抜けきれない准騎士の姿に、その場にいた全員が圧倒される。
ルヴァイン王国に再び英雄が降臨した瞬間だった。

