きっかけは北方にあるとある伯爵家の税金横領が摘発されたことだった。
王家から遣わされた騎士と税務管理官が遡って税務記録を見直した結果、十年以上に渡る不正が見つかった。伯爵と長男夫妻が捕縛され、家は取り潰しとなった。
さらに伯爵家は隣国の商会と通じ、この国の人間を奴隷として売り飛ばしていたことが発覚した。その悪行の窓口となっていたのが例の高利貸しだ。顧客を借金漬けにし、暴利を課して返済不能に陥れては、そのカタに娘や息子を貰い受けて労働施設や娼館に送り込む。そこで数ヶ月過ごさせた後に失踪か死亡したかに見せかけて隣国に売り飛ばす。前代未聞の大捕物に王都中が成り行きを見守った。
高利貸しの顧客名簿にランバート家が名前を連ねていたこともあり、ユリウスもまた税務当局の喚問を受けた。その中で、今回の事件の真相につながった伯爵家の横領について指摘をしたのがソフィア王女であることを知った。
「税務記録から不正を暴いたのが王女ですか? 嘘でしょう、ソフィア王女殿下って確か……」
妹よりも年下で、まだ子どもだったはずと記憶を呼び起こす。
「御年九歳でいらっしゃいます。家庭教師から各地の税制について学んでいる授業の流れで、くだんの伯爵家の帳簿の写しを見られたそうです。そこで数字の推移がおかしいことに気づかれたのだとか」
「たまたま気づかれたということですか?」
「殿下はすべての領地の過去の税務記録に目を通されたのだそうです。ちなみにこの伯爵家だけでなく、他領でもいくつか不正な点を発見されています。尤もここまで大きい案件ではなく、うっかりも混ざっていたので、そちらは修正徴収ですでに対応済みです」
「九歳の少女が、すべての領地の税務記録を洗い出した?」
「授業で王領の税収について学んだことが面白かったそうで、どうせならと空き時間に他の領地についても調べておられたそうです。ご本人は趣味の延長だったとおっしゃっているらしいのですが」
「……」
王家の姉姫はかなり優秀だという噂は聞いたことがあった。とはいえなんというか、桁が違いすぎやしないだろうか。
「この伯爵家はかなり功名で、帳簿の改竄も一見不備がないように取り繕っていました。現に王宮の税務管理官が揃いも揃って見落とし騙されていたくらいですからね。それに気づかれたのですから、さすがとしか言いようがありません」
さすがという言葉で片付けていいものかどうか激しく悩ましいところだが、担当者がランバート家の借金の証文を取り出したので、姿勢を改めた。
王家から遣わされた騎士と税務管理官が遡って税務記録を見直した結果、十年以上に渡る不正が見つかった。伯爵と長男夫妻が捕縛され、家は取り潰しとなった。
さらに伯爵家は隣国の商会と通じ、この国の人間を奴隷として売り飛ばしていたことが発覚した。その悪行の窓口となっていたのが例の高利貸しだ。顧客を借金漬けにし、暴利を課して返済不能に陥れては、そのカタに娘や息子を貰い受けて労働施設や娼館に送り込む。そこで数ヶ月過ごさせた後に失踪か死亡したかに見せかけて隣国に売り飛ばす。前代未聞の大捕物に王都中が成り行きを見守った。
高利貸しの顧客名簿にランバート家が名前を連ねていたこともあり、ユリウスもまた税務当局の喚問を受けた。その中で、今回の事件の真相につながった伯爵家の横領について指摘をしたのがソフィア王女であることを知った。
「税務記録から不正を暴いたのが王女ですか? 嘘でしょう、ソフィア王女殿下って確か……」
妹よりも年下で、まだ子どもだったはずと記憶を呼び起こす。
「御年九歳でいらっしゃいます。家庭教師から各地の税制について学んでいる授業の流れで、くだんの伯爵家の帳簿の写しを見られたそうです。そこで数字の推移がおかしいことに気づかれたのだとか」
「たまたま気づかれたということですか?」
「殿下はすべての領地の過去の税務記録に目を通されたのだそうです。ちなみにこの伯爵家だけでなく、他領でもいくつか不正な点を発見されています。尤もここまで大きい案件ではなく、うっかりも混ざっていたので、そちらは修正徴収ですでに対応済みです」
「九歳の少女が、すべての領地の税務記録を洗い出した?」
「授業で王領の税収について学んだことが面白かったそうで、どうせならと空き時間に他の領地についても調べておられたそうです。ご本人は趣味の延長だったとおっしゃっているらしいのですが」
「……」
王家の姉姫はかなり優秀だという噂は聞いたことがあった。とはいえなんというか、桁が違いすぎやしないだろうか。
「この伯爵家はかなり功名で、帳簿の改竄も一見不備がないように取り繕っていました。現に王宮の税務管理官が揃いも揃って見落とし騙されていたくらいですからね。それに気づかれたのですから、さすがとしか言いようがありません」
さすがという言葉で片付けていいものかどうか激しく悩ましいところだが、担当者がランバート家の借金の証文を取り出したので、姿勢を改めた。

