ルヴァイン王国の宰相補佐、ユリウス・ランバートの恋は、たった今叶った。

「……いいえ、お父様、お母様、私、決めました。ランバート卿と結婚します」

 ルヴァインの至高姫、王太女であるソフィアは、両親の前でそう宣言した。

「そういうことですから、ランバート卿もよろしいかしら」

 ルビーのような美しい赤い瞳をこちらに向けたソフィアに、ユリウスは頭を下げる。

「仰せのままに、我が君」

 異存などあるわけがない。ここまで来るのに十年の歳月を費やした。

 彼自身も届くことなどないだろうと、心のどこかで感じることもあったその思いは、今この場で結実した。

 たとえ彼が恋焦がれた相手が同じ熱量を返してくれていないとしても、今は十分だと、彼女の手を取る。

「騎士ではありませんので剣を捧げることはできませんが、生涯に渡りソフィア様の手となり足となり、貴女様に私の心を捧げると誓いましょう」

 彼の心は十年も前から、この麗しき女性に囚われていた。彼女の傍にいられる権利を得るためだけに、ここまで駆け上ってきたのだ。

 その途方もない時間を思いながら、彼女の手にキスを落とし——刻みつけた。