「いったい何を言われるのかと思えば……。そんな戯言を確認するために扉を閉めたのですか」
ユリウス・ランバートと言えば、宰相が一目置くほどの優秀な人材というほかには、何も特徴がない男のはずだった。
だが人畜無害だった彼の腕にソフィアは今絡め取られている。
「ひとつ忠告申し上げます。あなたが英雄カーク・ダンフィルに抱いていた思いは、決して恋などではありませんでしたよ。せいぜいが身近な同世代の異性への憧れという範疇です」
「あなた、いったい何を……」
「想像してみてください。もし英雄に選ばれたのがカーク・ダンフィルでなく、エステル様だったらどうでしょう」
「え……?」
「あなたは妹姫の剣の誓いを受け取り、戦線へと彼女を送り出しましたか? 魔獣という人の理を理解できぬ獣の餌になるかもしれない役目を、エステル様に負わせたでしょうか。その尊い身体を貪られ肉片となり、遺体すらも戻らぬまま深い森の奥で朽ち果てる——そんな可能性がある場所に、国のために死に物狂いで働いてこいと追い立てたでしょうか」
彼の言葉を受けて、ついその光景を想像してしまった。深緑の騎士服に身を包んだエステルが聖剣を自分へと捧げる姿を。討伐隊の先頭に立って振り返ることなく旅立っていく姿を。見たこともない魔獣を倒すために剣を振るうエステルに、突如として鋭い牙が襲いかかる。その攻撃を躱すことができず、魔獣に喰いつかれ苦しみながら倒れる、大切な大切な妹姫——。
「やめて! そんなこと、あの子にさせられるわけがないでしょう!?」
「それが答えですよ、ソフィア様」
「————!!」
蒼白となったソフィアに、ユリウスは畳み掛けた。
ユリウス・ランバートと言えば、宰相が一目置くほどの優秀な人材というほかには、何も特徴がない男のはずだった。
だが人畜無害だった彼の腕にソフィアは今絡め取られている。
「ひとつ忠告申し上げます。あなたが英雄カーク・ダンフィルに抱いていた思いは、決して恋などではありませんでしたよ。せいぜいが身近な同世代の異性への憧れという範疇です」
「あなた、いったい何を……」
「想像してみてください。もし英雄に選ばれたのがカーク・ダンフィルでなく、エステル様だったらどうでしょう」
「え……?」
「あなたは妹姫の剣の誓いを受け取り、戦線へと彼女を送り出しましたか? 魔獣という人の理を理解できぬ獣の餌になるかもしれない役目を、エステル様に負わせたでしょうか。その尊い身体を貪られ肉片となり、遺体すらも戻らぬまま深い森の奥で朽ち果てる——そんな可能性がある場所に、国のために死に物狂いで働いてこいと追い立てたでしょうか」
彼の言葉を受けて、ついその光景を想像してしまった。深緑の騎士服に身を包んだエステルが聖剣を自分へと捧げる姿を。討伐隊の先頭に立って振り返ることなく旅立っていく姿を。見たこともない魔獣を倒すために剣を振るうエステルに、突如として鋭い牙が襲いかかる。その攻撃を躱すことができず、魔獣に喰いつかれ苦しみながら倒れる、大切な大切な妹姫——。
「やめて! そんなこと、あの子にさせられるわけがないでしょう!?」
「それが答えですよ、ソフィア様」
「————!!」
蒼白となったソフィアに、ユリウスは畳み掛けた。

