両親に呼び出された席で、選定された婚約者の名前を知らされ、さすがのソフィアも目を見張ることとなった。

「ユリウス・ランバート宰相補佐、ですか?」

 その場に同席した彼を不躾に見つめたのは仕方のないことであろう。つい先ほどソフィアに「顔色が悪い」と指摘したときも、この話題について微塵も匂わせなかった彼が、未来の王配となることは少々想定外だった。

「宰相補佐はランバート伯爵家の御当主では?」

 頭の中にはこの国の貴族の系譜がすべて詰まっている。彼は次男だが、長男が病弱で領地から出られず、十代の若さで家督を継いだはずだ。当主や嫡男である時点でソフィアの婚約者候補から外されるはずだ。

「確かに私は家督を継いでいますが、我が家には兄がおります。若い時分に病を患った影響で後継が望めない身体になったため、私が伯爵位を継ぎました。しかしながら兄の体調はすでに回復しており、今は領地の面倒を見てくれています。私が王家に婿入りしても、伯爵家の運営に支障はありません」
「ご長男様が快癒されたことは大変喜ばしいことですが、その、伯爵家の後継はどうするのです」

 将来ソフィアとの間に子がたくさんできれば、誰かを養子に出す選択も取れなくはない。だが今の王家にソフィアとエステルの二人しかいないことを鑑みても、絶対の安全策ではない。

 だが彼はこともないかのように答えを広げた。

「子爵家に嫁いだ妹が子宝に恵まれ、三人の男児の母となりました。将来誰かを養子に貰うことも十分可能でしょう」
「……」

 完全な理論武装に、ソフィアはそれ以上の質問を失った。これは完全に外堀が埋められているということだ。突く点があるとすれば伯爵家という家格が王家と少々釣り合いが悪いということくらいだが、先例がない話でもない。

 押し黙ったソフィアに父王がおずおずと切り出した。

「実は急ぎであちこちに打診をしてみたのだが、あまり芳しい返事が得られなくてだな。何、ソフィアに不足があるというわけではない。この二年の間に、めぼしい候補者たちは軒並み水面下で婚約を結んでいたようなのだ。状況が状況なだけに公表を控えてはいたようだが」

 魔獣暴走(スタンピード)という国難に見舞われていたルヴァイン王国では、この二年の間に慶事が慎まれていた。討伐隊の中には貴族家が輩出した騎士も多くいたたため、身内が命懸けで戦っている中、婚約や婚姻を積極的に推し進める気にはなれなかったのは尤もな話だ。

 だがそれも数日前までのこと。慎まれていた慶事は、エステルとカークの婚姻を皮切りに一気に進むであろう。自分の婚約話は予想外の出来事ではあったが、とはいえ候補者が皆無というのはどういうことか。

 父に代わって、同席していた宰相が苦虫を噛み潰したような表情で口を開いた。