エステルがどんなに思いを募らせても、カークが剣を捧げる相手は姉。彼はソフィアのことが好きなのだ。
そしてその思いはおそらく一方通行ではない。姉のソフィアが、学生だからと婚約者の選定を先送りにしている本当の理由を、エステルは知っている。
姉もまたカークに思いを寄せている。完璧な淑女として名高い彼女の、美しいルビーの瞳は、たまにやってくる修練所でいつもカークを探している。その視線の先に妹である自分がいることが多いものの、それ以上に己の乳兄弟の姿を目で追っている。エステルがなぜ気づいたのかと言えば、自分もまた無意識にカークを見ているからだった。
様々な視線が混じり合う中で、姉の瞳はいつだって冷静だ。それでもその強さと向けられる数は雄弁だ。
もしかしたら姉の片思いかもしれない、そう思ったこともある。それにカークは子爵家の次男。未来の王配となるには身分が低すぎた。
けれどあるとき、エステルは聞いてしまった。カークが同僚の准騎士に打ち明けている言葉を。
「俺には手が届かない方だってわかっている。だから騎士を目指すことにしたんだ。騎士になって武功を上げれば、王女の隣に立てる可能性も出てくるんじゃないかって。万が一の、奇跡のようなことだとはわかってるさ。でもその奇跡が起こせるとしたら、侍従よりも文官よりも騎士だ。俺はその奇跡に賭けたい。彼女に傷の一つつけることがないよう、彼女が守りたいものも含めて、すべてを守ってやりたいんだ。だから俺は正騎士になって、ソフィア様に剣を捧げる」
エステルに聞かれていたことを、カークは気づいていないだろう。なぜなら彼女はその言葉を聞いてすぐに修練所から逃げ去り、初めて訓練をサボってしまったのだから。
そしてその思いはおそらく一方通行ではない。姉のソフィアが、学生だからと婚約者の選定を先送りにしている本当の理由を、エステルは知っている。
姉もまたカークに思いを寄せている。完璧な淑女として名高い彼女の、美しいルビーの瞳は、たまにやってくる修練所でいつもカークを探している。その視線の先に妹である自分がいることが多いものの、それ以上に己の乳兄弟の姿を目で追っている。エステルがなぜ気づいたのかと言えば、自分もまた無意識にカークを見ているからだった。
様々な視線が混じり合う中で、姉の瞳はいつだって冷静だ。それでもその強さと向けられる数は雄弁だ。
もしかしたら姉の片思いかもしれない、そう思ったこともある。それにカークは子爵家の次男。未来の王配となるには身分が低すぎた。
けれどあるとき、エステルは聞いてしまった。カークが同僚の准騎士に打ち明けている言葉を。
「俺には手が届かない方だってわかっている。だから騎士を目指すことにしたんだ。騎士になって武功を上げれば、王女の隣に立てる可能性も出てくるんじゃないかって。万が一の、奇跡のようなことだとはわかってるさ。でもその奇跡が起こせるとしたら、侍従よりも文官よりも騎士だ。俺はその奇跡に賭けたい。彼女に傷の一つつけることがないよう、彼女が守りたいものも含めて、すべてを守ってやりたいんだ。だから俺は正騎士になって、ソフィア様に剣を捧げる」
エステルに聞かれていたことを、カークは気づいていないだろう。なぜなら彼女はその言葉を聞いてすぐに修練所から逃げ去り、初めて訓練をサボってしまったのだから。

