春は、吹奏楽フェスティバルに向けての練習が始まった。

冬休みから練習していたポップスの曲を披露する、ちょっと楽しい舞台。

でも、家庭訪問期間が重なって、練習はなかなか思うように進まなかった。


「今日、先生来ないって」

「また個人練かぁ…」

そんな日が続いて、少しだけもどかしかった。


それでも、春休みに入ってからの合奏は楽しかった。

音が重なる瞬間、やっぱり吹奏楽っていいなって思えた。

芽衣歌ちゃんも詩妃も、笑いながら吹いていて、空気が柔らかかった。


春休みもほとんど練習はなかったけど、 春休み練習、3月27日、最後の日。

私たちは芽衣歌ちゃんと詩妃と一緒に、近くの高校の定期演奏会を聴きに行くので、部活を早退した。

ステージの音は、すごくうまくて、圧倒された。

「え、なにこの音の厚み…」

「やばいめっちゃきれい…」

「ホルンのソロ、鳥肌立った」

3人で目を見合わせて、ただただ感動していた。

“もっと上手くなりたい”

“あんな音を出したい”

そんな気持ちが、静かに心に芽生えた。


そして、4月1日。 朝起きて、新聞を開いた。 今日は先生の異動発表の日。

新聞に先生の名前と移動先が乗っているのだ。

そこに、まさかの名前が載っていた。

「崎原先生、異動…?」 目を疑った。

でも、確かに書いてあった。

代わりに来るのは、ちょっと遠くの学校から来る女性の先生らしい。

LINEが一気に騒がしくなった。

吹奏楽メンバーのグループでも、私たちのクラスの音楽の授業も持ってくれていたので、クラスのグループでも、

「えーー!」

「崎原先生移動!?」

「さみしい…」

そんなメッセージが飛び交っていた。

先生の指揮で吹いたあの音。

怒られた日も、褒められた日も、全部が思い出になっていく。

音楽は悲しいことも持ってきてしまったのだ。