引退式の前日。

双子の茄知子と、弥簔と、フルートのかわいい子と一緒に、先輩へのプレゼントを買いに行った。

お世話になった先輩に渡すものだから、なんとなく緊張する。

でも、ワクワクもしていた。

喜んでくれるかなって、みんなで朝から夕方まで悩んで選んだ。


帰ってきてから、私は手紙を書いた。

最後だからこそ、伝えなくて後悔するのは嫌だった。

だから、照れくさいことも全部書いた。


先輩のおかげで、ホルンが好きになれたこと。


先輩がいてくれて、毎日がすごく楽しかったこと。


先輩の音色がきれいで、ずっと憧れていたこと。


そして、ありがとうの言葉と、高校でも頑張ってくださいのメッセージ。


心を込めて、全部書ききった。


引退式の日。

私たちは、部室の飾りつけと準備のために、いつもより早く学校に来た。

式は、コンクールの審査員の講評から始まった。

「中低音が弱い」

「ピッチが悪い」

「ハーモニーがずれている」

ぐさぐさ刺さる言葉ばかりだった。

そして、桜田先生が言った。





「ここにきて、まだ慣れていないのもあって、指導が行き届いてなかったりしてごめんなさい」







なんで先生が謝るんだろう。

全部、私たちの練習が足りなかったからなのに。

その言葉が、ずっと心に残ってしまった。

深く、深く後悔した。

でも、せっかくの引退式だから――って、みんなで気持ちを切り替えた。

フルーツバスケットをしたり、先輩との最後の自由時間を過ごした。

あゆか先輩にプレゼントを渡したら、すごく喜んでくれて、私もすごく嬉しかった。

しかも、あゆか先輩は私にもプレゼントをくれた。

先輩一人ひとりが、後輩へのメッセージを言う時間。

私は、耐えきれずにちょっと涙がこぼれた。 なんて涙もろいんだろう(笑)

あっという間に時間が過ぎていった。

でも、あの日の音は、ずっと心に残っている。 最後の音が、やさしく響いた日だった。