本番の日。

午前の演奏だから、私はいつもよりずっと早く目が覚めた。


ワクワクしていて、目覚ましよりもずっと前に起きちゃった。

ヘアセットをして、シャツのしわを丁寧に伸ばして、 鏡の前で深呼吸を何度も繰り返した。


学校に着くと、空気が違った。

みんなの顔が少しこわばっていて、緊張がじわじわと広がっていた。

チューニング室。

音を合わせるはずの場所なのに、空気はピンと張りつめていた。

そのとき、桜田先生の声が響いた。

そのとき、桜田先生の声が響いた。

「非常口ーーー!!!」

みんながぐはっ、ふふっと笑った。

先生はその顔を見て、すぐに言った。

「その顔その顔!本番はめっちゃ笑顔でね!楽しもうね!」

その一言で、空気が少しだけ柔らかくなった。

笑っていいんだ。楽しんでいいんだ。 そう思えた。

舞台裏では、前の学校の演奏が信じられないくらい上手く聞こえて、 みんなもやっぱり、緊張した様子。

でも、先生の声が聞こえた。


「大丈夫。楽しむのが一番だからね」

その言葉が、心の奥にすっと届いた。

それだけで、少しだけ前を向けた。

そして、いざ本番。


私たち2年生にとっては、初めてのコンクール。


ピアノの発表会でも、こんなに緊張したことはなかった。

でも、ステージに立った瞬間、 時間はほんの一瞬で過ぎていった。

演奏は、楽しかった。

今までの練習の音が、ちゃんと出せた。

ちょっとだけ後悔する部分もあるけど、 それでも、私たちの音はちゃんと響いた。

演奏後、写真屋さんが集合写真を撮ってくれて、 みんなで学校に戻った。

桜田先生は言ってくれた。

「いい演奏にできたと思います」

その言葉が、何より嬉しかった。