ある日、桜田先生の教え子だというプロのパーカッション奏者の方が部活に来てくれた。

先生とその人は、すごく楽しそうに話していて、

「久しぶり!うわっめっちゃ大人になってるじゃん!」

「まあ、10年とかですもんねー」

そんなやりとりに、部室の空気がふわっと明るくなった。


私は、その様子を少し見ていた。

「いいなぁ…先生とあんなふうに話せるなんて、、」

「私もこんな感じになったら、先生の教え子として来てみたいなー」

話しかけたい気持ちはあるのに、 人見知りで、どうしても一歩が踏み出せなかった。


そのプロの奏者の方は、練習方法を見てくれたり、

「こういうリズムの取り方、試してみて」

「音の粒をそろえるには、こういう練習がいいよ」

って、すごく丁寧に教えてくれた。

次の週には、その人の楽団にいる奏者の方々も来てくれて、 部室はすごく明るくなった。


でも、ホルンの奏者は来ていなかった。

あゆか先輩と並んで、ちょっと手持ち無沙汰な時間。

「えーっと、ホルンの人いないんですか」

「うん、みんな教えてもらってて、なんか暇だね〜」

そんな会話をしながら、笑い合った。

でも、心の中では少しだけ焦っていた。

「みんな、どんどん上手くなってる気がする」

「私も、もっと話しかけられたら…教えてもらえるようになるのかな」

そんな思いが、静かに胸の奥に残った。

でも、あゆか先輩が隣にいてくれて、

「まあ、ホルンはホルンで、じっくりやろうよ」

って言ってくれたのが、すごく救いだった。

その日、音は出していない時間もあったけど、 心の中では、音楽が鳴っていた。