ーー目が覚めると、見たことのない天井があった。
頬に涙が伝っている。
泣いていたのかーー私。
「縁……?」
ベッドサイドには、実母がいた。
なにこれ、デジャヴ……?
母がナースコールを押し、叫ぶ。
「娘の意識が、戻りました!」
その声が震えていた。
あの母が泣いているーー冷たい人間だと思っていたのに。
子供の頃から、母は厳しかった。
帰ってこない父を泣きながら待つ女であり、その反動か、娘には厳しい。
叱られるのが常で、休日にゴロゴロするだとか、もっての外。
私はいつも、学校か塾か、習い事。
家には、居場所なんてなかった
母は教育業界しか知らず、一人娘の私には当然のように「教師になりなさい」と思想的英才教育を施した。
大学は国立以外、認めない。
かなり偏った理想を押し付けてくる親だったように思う。
なによりも、世間体が大事。
いつも「あなたのためだから」と言っていた。
私が大学入学と同時に両親は離婚。
それ以来、父とは会っていない。
母にも、理由をつけては会うのを避けてきた。
私のために泣いたことなど、一度もなかったのに。
その母が、泣いている。
「縁、本当に良かった……」
「なんで……泣いてるの?」
「なんでって、娘が死んでたかもしれないのよ。助かって良かったと思うのは、親として当たり前でしょう!」
この人に、こんな感情があったんだーー。
記憶の中の母と、目の前にいる人物が、まるで別人のように思えた。
「縁、何か悩みがあるの? 仕事が辛いの? なぜ車に飛び込んだりしたの!」
「……え?」
私は、2024年12月25日に、交通事故に遭った。
私の記憶では、通勤途中の神社にいた猫を助けようとしたのだけれど、その猫は妖怪なので他の人には見えず、目撃者には、私が理由なく突然車に飛び込んだように見えたらしい。
「もし、仕事で辛いことがあるのなら、辞めてもいいのよ? お母さんもお父さんも、教師になるのが縁のためだと思っていたの。でも、縁の成績が下がると、”お前の教育が悪い”とお父さんに責められるようになって、それが怖くて、縁に勉強を強いるようになってた」
私の中に、束縛の象徴として君臨していた母の姿は、そこにはなかった。
「……離婚して冷静になって、お母さんは一度も、あなたの口から将来の夢とか、やりたいことを聞いたことがないって気付いたの。『あなたのため』と言っていたのは、実は『お母さんのため』だったのよ。今まで、ごめんなさい。もし、教職が嫌になったのなら……」
「辞めないよ」
母の顔に、驚きが浮かぶ。
私は、静かに微笑んだ。
「辞めないよ。私に、教師に向いてるって言ってくれた人が、いるから」
頬に涙が伝っている。
泣いていたのかーー私。
「縁……?」
ベッドサイドには、実母がいた。
なにこれ、デジャヴ……?
母がナースコールを押し、叫ぶ。
「娘の意識が、戻りました!」
その声が震えていた。
あの母が泣いているーー冷たい人間だと思っていたのに。
子供の頃から、母は厳しかった。
帰ってこない父を泣きながら待つ女であり、その反動か、娘には厳しい。
叱られるのが常で、休日にゴロゴロするだとか、もっての外。
私はいつも、学校か塾か、習い事。
家には、居場所なんてなかった
母は教育業界しか知らず、一人娘の私には当然のように「教師になりなさい」と思想的英才教育を施した。
大学は国立以外、認めない。
かなり偏った理想を押し付けてくる親だったように思う。
なによりも、世間体が大事。
いつも「あなたのためだから」と言っていた。
私が大学入学と同時に両親は離婚。
それ以来、父とは会っていない。
母にも、理由をつけては会うのを避けてきた。
私のために泣いたことなど、一度もなかったのに。
その母が、泣いている。
「縁、本当に良かった……」
「なんで……泣いてるの?」
「なんでって、娘が死んでたかもしれないのよ。助かって良かったと思うのは、親として当たり前でしょう!」
この人に、こんな感情があったんだーー。
記憶の中の母と、目の前にいる人物が、まるで別人のように思えた。
「縁、何か悩みがあるの? 仕事が辛いの? なぜ車に飛び込んだりしたの!」
「……え?」
私は、2024年12月25日に、交通事故に遭った。
私の記憶では、通勤途中の神社にいた猫を助けようとしたのだけれど、その猫は妖怪なので他の人には見えず、目撃者には、私が理由なく突然車に飛び込んだように見えたらしい。
「もし、仕事で辛いことがあるのなら、辞めてもいいのよ? お母さんもお父さんも、教師になるのが縁のためだと思っていたの。でも、縁の成績が下がると、”お前の教育が悪い”とお父さんに責められるようになって、それが怖くて、縁に勉強を強いるようになってた」
私の中に、束縛の象徴として君臨していた母の姿は、そこにはなかった。
「……離婚して冷静になって、お母さんは一度も、あなたの口から将来の夢とか、やりたいことを聞いたことがないって気付いたの。『あなたのため』と言っていたのは、実は『お母さんのため』だったのよ。今まで、ごめんなさい。もし、教職が嫌になったのなら……」
「辞めないよ」
母の顔に、驚きが浮かぶ。
私は、静かに微笑んだ。
「辞めないよ。私に、教師に向いてるって言ってくれた人が、いるから」
