いつか、桜の季節に 出逢えたら

今日は父が出張から帰ってくるので、母に頼んで、私と紫苑で【父を労う会】を開催することにした。


「お前、フライパン焦がすなよ」

「ごめん〜」

目玉焼き一つ、まともに焼けないとは。
ハンバーグにのせたかっただけなのに。


「……お前、本当に、あの絵梨花じゃないんだな……」

「そうだって言ってるじゃん」

こんなことで、いとも簡単に他人説を証明できてしまうとは。


「ていうか、あの絵梨花が勉強できてる時点で、おかしいと思うべきだったのかもな。こんなこと、思い付くわけがないけど」

「信じていただけたようで、良かったです」


それにしても、火加減とか味付けとか、調理センスが絶望的にないんだよね。
物心ついたときには、食べ物は学校や塾の合間に買うものだと思って育ったからなのかーー
また嫌なことを思い出してしまった。

「こっちはもういいから、あっち片付けて」

ということで、私が片付け担当で、料理担当は紫苑になった。



父が帰宅し、母とも一緒にテーブルを囲む。

「二人で作ってくれたの? 美味しそうね」

母はそう言いますが。
すみませんーー作ったのは紫苑一人です。


「お父さん、お疲れ様です」

「ありがとう」

父がキッチンの皿に乗っている焦げた目玉焼きを見つける。

「あれは……」

「バカ、なんでお前、片付けてないんだよ!」

「だって、食べ物を捨てるなんて、できないし!」

小声で話していると、父が焦げた目玉焼きの皿の方へ歩いていく。


「……これ、絵梨花が……?」

「はい、ごめんなさい! 焦がしました、ごめんなさい!」

「……懐かしいなぁ、僕が男手一人で絵梨花を育てようとしていた時に作ってたのも、こんなだった。僕は、目玉焼きなら、たまに成功していたから。そんなの、再現しなくて良かったのに」

目を潤ませながら、思い出にふける父。

ーーへ?
そういえば、絵梨花のブログに書いてあったな、そんなこと。

「お父さん、絵梨花はお父さんの焦げた目玉焼きが、大好きでした。お母さん、いつもありがとうございます。父にはお母さんが必要です。これからも父を支えてあげて下さい」

思いがけず、絵梨花のセリフを伝えることができてしまった。
これも神のお導きか、はたまた、ただの偶然なのか。

父母の後ろで、紫苑が今にも吹き出しそうになって笑いをこらえているけど、まあいいだろう。

父と母への感謝の気持ちを、直接伝えることができた。
ーー本当は、これからもずっと、あなたたちの娘でいたかったです。