いつか、桜の季節に 出逢えたら

結局、私は改変することをやめた。
残りの時間は、絵梨花のために使いたいけど、私も自分の気持ちに嘘を吐きたくない。


帰りの新幹線の中で、過去の私を思い出す。

私は、昔から物わかりの良い子だった。
それが当たり前だと思えば、何の疑問も持たない子だった。

両親とも高校教師。
そもそも、忙しくて家にいる時間が少ない。
他の女の家から帰らない父と、それを泣きながら待つ母。
母は、仕事か泣くかで、家事なんてほとんどしなかった。

私は、家事全般はできるのだが、料理だけは全くできない。
母の手作り料理なんて食べたことがない。
食べ物とは買うものーーそれがうちの常識だった。

テストで良い点を取っても褒められることはなく、悪い点だとひどく怒られた。
ゲームも「あなたのため」と、禁止された。

一人っ子だから期待だけは大きくて、息の詰まる毎日だったな。
あぁそうか、だから私は、誰かーー甘えられる存在が、欲しかったんだ。

大学に入った途端、両親は離婚してたっけーー
あの人たちにとって、私は一体、何だったのだろう。

レールに乗せられたとはいえ、教師になったことに後悔はない。
勉強が楽しいかどうかは別として、人に教えること、教え子の成績が上がるのは嬉しいし、やりがいもあった。

ただ社会というものは、「やることをやればいい」だけでは通らない。
いろんな思惑やしがらみがあって、そういうところが嫌になっただけ——なんだよ。

ーーうん。これも自分の選んだ道の結果だ。
なかったことにはしたくないし、今の私にできることをしたい。