「ねぇ、絵梨花。藤川くんと付き合ってるって本当?」
前の席の鞠が振り向き、話しかけてきた。
「はぁ? そんなわけないじゃん!」
ーー寝耳に水の話で、驚きと同時に怒りが湧いた。
「だって、この前、一緒に帰ってたんでしょ? いつもは紫苑くんと一緒なのに、藤川くんと二人で帰ってるところを見たって子がいてね……」
「あれは、別にそういうんじゃないの。なんで一緒に帰っただけで誤解されるかなぁ。それ、間違いだから、誰かに聞いたら訂正しておいてよ」
「ちぇー、ついに絵梨花が兄離れしたのかと思ったのにぃ」
「いいから、それ言ってる人がいたら、訂正してよ?」
「はーい(しぶしぶ)」
どこから湧いた噂なのかわからないが、やっぱり紫苑の耳にも入っていた。
「いい加減、はっきり断れよ」
「毎回、やんわり断ってるよ。この前も走って逃げたんだよ?」
「そのうち、事実にされたらどうするんだよ」
いつものように二人で帰宅中、急に母からのメールが届いた。
【お母さんのお友達に不幸があって、今から離島に行ってきます。お父さんも出張でいないけど、二人でなんとかできるかしら】
紫苑にも同じメールが届いているが、何と言ったらいいのかわからないといった表情で、固まっている。
「紫苑くん、ごはんどうしよう……何か買って帰る?」
悲しいかな、記憶が戻った私は思い出してしまった。
私は料理が壊滅的なのだと。
「……はぁ、お前はまず先に来るのが、飯の心配なのかよ」
紫苑がため息を吐きながら、呆れている。
私の心配をよそに、家に帰ると紫苑が夕食を作ってくれた。
「紫苑くん、料理までできるの? 本当に器用だね」
「お前、料理はできるんじゃなかったっけ? 再婚前は、家事は自分でやってたんだよね? ほら、父さんの料理が、あれだし……」
そういえば、絵梨花ってそういう子だった。
設定を忘れてた。
「ほら、お母さんのごはんが美味しすぎて、ずっと作ってなかったから、作り方を忘れちゃったみたいで」
咄嗟に誤魔化してみたけれど、さすがに無理があったかもしれない。
「洗い物は私がするから」
私は、たるんでいるのだろうか。
つい、素の自分が出てしまう。
紫苑と一緒にいるのが当たり前になりすぎて、甘えてしまっているのかな。
残り、あと半月もないのに。
「紫苑くん……今日もゲームと勉強……やるの?」
紫苑の部屋のドアを開けて、顔だけ覗かせる。
家に二人きりだと思うと、さすがに部屋に入るのはためらわれた。
「え、やんないの?」
あまりにも平然と言うので、拍子抜けする。
全く、紫苑というやつは、自分の好きなことには躊躇がないな。
ーーなんだ、緊張しているのは、私だけか。
前の席の鞠が振り向き、話しかけてきた。
「はぁ? そんなわけないじゃん!」
ーー寝耳に水の話で、驚きと同時に怒りが湧いた。
「だって、この前、一緒に帰ってたんでしょ? いつもは紫苑くんと一緒なのに、藤川くんと二人で帰ってるところを見たって子がいてね……」
「あれは、別にそういうんじゃないの。なんで一緒に帰っただけで誤解されるかなぁ。それ、間違いだから、誰かに聞いたら訂正しておいてよ」
「ちぇー、ついに絵梨花が兄離れしたのかと思ったのにぃ」
「いいから、それ言ってる人がいたら、訂正してよ?」
「はーい(しぶしぶ)」
どこから湧いた噂なのかわからないが、やっぱり紫苑の耳にも入っていた。
「いい加減、はっきり断れよ」
「毎回、やんわり断ってるよ。この前も走って逃げたんだよ?」
「そのうち、事実にされたらどうするんだよ」
いつものように二人で帰宅中、急に母からのメールが届いた。
【お母さんのお友達に不幸があって、今から離島に行ってきます。お父さんも出張でいないけど、二人でなんとかできるかしら】
紫苑にも同じメールが届いているが、何と言ったらいいのかわからないといった表情で、固まっている。
「紫苑くん、ごはんどうしよう……何か買って帰る?」
悲しいかな、記憶が戻った私は思い出してしまった。
私は料理が壊滅的なのだと。
「……はぁ、お前はまず先に来るのが、飯の心配なのかよ」
紫苑がため息を吐きながら、呆れている。
私の心配をよそに、家に帰ると紫苑が夕食を作ってくれた。
「紫苑くん、料理までできるの? 本当に器用だね」
「お前、料理はできるんじゃなかったっけ? 再婚前は、家事は自分でやってたんだよね? ほら、父さんの料理が、あれだし……」
そういえば、絵梨花ってそういう子だった。
設定を忘れてた。
「ほら、お母さんのごはんが美味しすぎて、ずっと作ってなかったから、作り方を忘れちゃったみたいで」
咄嗟に誤魔化してみたけれど、さすがに無理があったかもしれない。
「洗い物は私がするから」
私は、たるんでいるのだろうか。
つい、素の自分が出てしまう。
紫苑と一緒にいるのが当たり前になりすぎて、甘えてしまっているのかな。
残り、あと半月もないのに。
「紫苑くん……今日もゲームと勉強……やるの?」
紫苑の部屋のドアを開けて、顔だけ覗かせる。
家に二人きりだと思うと、さすがに部屋に入るのはためらわれた。
「え、やんないの?」
あまりにも平然と言うので、拍子抜けする。
全く、紫苑というやつは、自分の好きなことには躊躇がないな。
ーーなんだ、緊張しているのは、私だけか。
