猫又は、ため息をつく。
「何を言ってるにゃ。この世界は、お前の魂の移動も含めての世界にゃ。これから起こることも、自然の摂理に従って動いてくもんだにゃ。オイラの干渉も、この世界においては必然。神サンもそう言ってたにゃ」
「じゃあ、私がどんな選択をしても、その先に起こることは必然だと?」
「お前が絵梨花として、遺される者に良い思い出を残すのも、その逆でも、それらの人間たちに多少の影響は残すだろうが、そいつらの世界線が微妙に分岐するだけで、結局は、どこかで収束するにゃ。明らかにお前の人生に影響すること……例えば、高校生のお前を殺すとか、2025年までのお前に影響を及ぼす人間との関係を変えたり断つなどしなければ、元のお前の世界に行き着くにゃ」
「少なくとも、2025年までの私の人生に直接関係のないことなら、余程のことをしない限り大丈夫ってこと?」
「そうにゃ。オイラが言えるのは、お前が存在すべき世界をどうしたいか、お前自身が決めろってことだけにゃ。このまま、何もせずに2025年に帰るも良し、ここで何かをやって帰るも良し。……まぁ、お前の体はすでに存在していないかもしれにゃいし。まさに今、火葬されているかもしれないがにゃ?」
猫又は、にゃはは!と笑っている。
自分の体のことを考えたら、早く戻った方がいいのかもしれない。
でも、ずっと、ここにいたい気持ちもあって。
ーーそれに。
「絵梨花は、あの日に死ぬとは思ってなかったはずだし、家族に伝えたいことがあったと思うんだよ。やっぱり、このまま中途半端で帰るのは……」
「……はぁ、お前はそう言うと思ったにゃ。早く帰ればいいのに。……オイラにとってはどうでも良いが、オイラのマブダチ神サンが、なぜその体と縁を結んだか、教えてやるにゃ」
猫又の尻尾が私の右手に触れる。
すると、誰かのビジョンが流れ込んできた。
全体的にノイズが入っているが、ベンチに座って川を見ている風景。
あ、これは、あの犬の看板の場所だ。
ーーよし、気持ちの整理がついた。
ーーお父さんとお母さんに、悪いことしちゃった。
ーーきちんと謝ったら、許してくれるかな。
ーーこれからは、妹として、普通に接するの。
その時、川を流れる木箱を見つける。
ーーあれは……猫?
急いで駆け出し、水に入る。
ーー冷たい、手足が凍りそう。
懸命に木箱を追い、抱え、岸の方へ戻る。
ーーあと少し、あと少し。
岸に着くと、倒れ込む。
ーーあぁ、猫は無事だ……よかった……。
薄れゆく意識の中で、後悔が渦巻く。
ーーお父さん、お母さん、ごめんなさい。
ーー紫苑くん、今までごめんなさい。
ーーもっと早く謝りたかった、ちゃんと家族になりたかった。
ーーここでは……死ねな……い……のに……。
そこで、意識が途切れた。
知らぬ間に、涙が溢れていた。
「これが、絵梨花の最期……?」
「これを見せると、お前自身の望みを後回しにするにゃ? オイラは、”お前”の願いを叶えればそれで良いにゃ。でも、神サンには別の意図があったのかもしれないにゃ。あと、オイラの同胞を助けてくれた人間にも、感謝は……してる……にゃ」
いつもの猫又らしくない、しおらしい声。
その時、ハッと思い出した。
「……待って。この声、聞いたことがある……」
病院で目覚める時、確かに聞いた。
どうかお願い……と。
そうか。
絵梨花は、この最期の願いを、私に託したかったのかもしれない。
「何を言ってるにゃ。この世界は、お前の魂の移動も含めての世界にゃ。これから起こることも、自然の摂理に従って動いてくもんだにゃ。オイラの干渉も、この世界においては必然。神サンもそう言ってたにゃ」
「じゃあ、私がどんな選択をしても、その先に起こることは必然だと?」
「お前が絵梨花として、遺される者に良い思い出を残すのも、その逆でも、それらの人間たちに多少の影響は残すだろうが、そいつらの世界線が微妙に分岐するだけで、結局は、どこかで収束するにゃ。明らかにお前の人生に影響すること……例えば、高校生のお前を殺すとか、2025年までのお前に影響を及ぼす人間との関係を変えたり断つなどしなければ、元のお前の世界に行き着くにゃ」
「少なくとも、2025年までの私の人生に直接関係のないことなら、余程のことをしない限り大丈夫ってこと?」
「そうにゃ。オイラが言えるのは、お前が存在すべき世界をどうしたいか、お前自身が決めろってことだけにゃ。このまま、何もせずに2025年に帰るも良し、ここで何かをやって帰るも良し。……まぁ、お前の体はすでに存在していないかもしれにゃいし。まさに今、火葬されているかもしれないがにゃ?」
猫又は、にゃはは!と笑っている。
自分の体のことを考えたら、早く戻った方がいいのかもしれない。
でも、ずっと、ここにいたい気持ちもあって。
ーーそれに。
「絵梨花は、あの日に死ぬとは思ってなかったはずだし、家族に伝えたいことがあったと思うんだよ。やっぱり、このまま中途半端で帰るのは……」
「……はぁ、お前はそう言うと思ったにゃ。早く帰ればいいのに。……オイラにとってはどうでも良いが、オイラのマブダチ神サンが、なぜその体と縁を結んだか、教えてやるにゃ」
猫又の尻尾が私の右手に触れる。
すると、誰かのビジョンが流れ込んできた。
全体的にノイズが入っているが、ベンチに座って川を見ている風景。
あ、これは、あの犬の看板の場所だ。
ーーよし、気持ちの整理がついた。
ーーお父さんとお母さんに、悪いことしちゃった。
ーーきちんと謝ったら、許してくれるかな。
ーーこれからは、妹として、普通に接するの。
その時、川を流れる木箱を見つける。
ーーあれは……猫?
急いで駆け出し、水に入る。
ーー冷たい、手足が凍りそう。
懸命に木箱を追い、抱え、岸の方へ戻る。
ーーあと少し、あと少し。
岸に着くと、倒れ込む。
ーーあぁ、猫は無事だ……よかった……。
薄れゆく意識の中で、後悔が渦巻く。
ーーお父さん、お母さん、ごめんなさい。
ーー紫苑くん、今までごめんなさい。
ーーもっと早く謝りたかった、ちゃんと家族になりたかった。
ーーここでは……死ねな……い……のに……。
そこで、意識が途切れた。
知らぬ間に、涙が溢れていた。
「これが、絵梨花の最期……?」
「これを見せると、お前自身の望みを後回しにするにゃ? オイラは、”お前”の願いを叶えればそれで良いにゃ。でも、神サンには別の意図があったのかもしれないにゃ。あと、オイラの同胞を助けてくれた人間にも、感謝は……してる……にゃ」
いつもの猫又らしくない、しおらしい声。
その時、ハッと思い出した。
「……待って。この声、聞いたことがある……」
病院で目覚める時、確かに聞いた。
どうかお願い……と。
そうか。
絵梨花は、この最期の願いを、私に託したかったのかもしれない。
