いつか、桜の季節に 出逢えたら

今日は、定期通院の日。
試験前なので、早く帰れて都合が良い。
二度目なので、一人で受診をする。

母は一緒に来たがったが、これ以上心配をかけたくないので、断固として1人で行くとわがままを言ってしまった。

前回は、自分が二重人格ではないかと疑っていたけれど、猫又のおかげ(?)で違うことがわかったので、専門科の予約はキャンセルして、勘違いだったということで押し通すことにした。

記憶は、少しずつ戻ってきているふりをする。
だって、他人の魂が入ってますだなんて、言えるわけがない。
おかしくなったと思われて、不必要な治療が始まってしまうかもしれない。

ーー最悪、人体実験ってことも。
なんとしても、バレないようにしなくては。

残った時間は、あと一ヶ月。
この受診自体、無駄なのはわかっているけれど、母が心配するので予定はこなすことにしている。


担当医から、検査結果の説明を受ける。

「前回より採血結果が悪いです。貧血も進んでいますし、腎機能も少し悪くなっているようです。何か、いつもと違う症状はありませんか?」

「特にありません」

ーー嘘です。
実は、たまにふらつくことがあります。
体の秘密がバレてしまうから、言わないけど。


「元気いっぱいなんですけど。なんででしょうね?」

にっこりと、明るく笑ってみせる。


「では、お薬を追加で出しますが、何か気になることがある時は、すぐに受診をしてください」


*****


帰り道、猫又を呼び出す。

私の魂がこの世界に移動した時点で、猫又と私には何らかの契約がされているらしく、声をかければすぐに現れる。

だったら、もっと早く出てきてほしかったが、私がこの世界の猫又の存在を“認識”して初めて発動する契約だという。
掟なのか仕組みなのか、融通が利くのか利かないのか。


「猫又さん」

「どうしたにゃ?」

いつも通り、(二本が重なっているから)尻尾の太い猫の姿で出現する。

「……なんで、絵梨花だったのかな……」

「この前も言ったにゃ? お前の死にかけた日のちょうど八年前、つまり、お前の望みを叶えられる時代にタイミング良く空になった容れ物が、その体だったってだけにゃ」

至極当然のことのように言うサイコパスみ溢れる猫又に、若干の不快感を感じながら、私は話を続ける。

「だいたいね、中身は一応大人なのに、女子高生として振る舞わなければならないのがね。私は一体、何やってんだろう……と思うのよ」


「お前、高校時代にやり残したことでもあったんじゃにゃいか? 実際、やり直したいって言ってたしにゃあ? いいじゃにゃいか、あと二ヶ月しかなし、やりたかったことやってもバチは当たらないにゃ」

「……でも、私はこの状態を望んだわけじゃないんだよ。なんだか、こっちの世界の未来を、私という異物が変えてしまうんじゃないかって、それは、良くないことなんじゃないかって、いろいろと考えてしまうんだよ」