いつか、桜の季節に 出逢えたら

「……絵梨花、どうかしたの?」

放課後、友人の鞠が声をかけてきた。


「あ、ごめん。何か言った?」

「来週、期末テストだから、みんなで勉強会するって言ったじゃん!」

ーーあぁ、そうだった。
来週、期末という名の学年末テストがあるからって、希望者が集まって勉強会をするんだった。

猫又に真実を告げられてからというもの、ここ数日間、何をするにも集中できない。

頭の中に嫌な記憶がとめどなく流れるのだ。
そして、絵梨花と自分の死について、どうしたらいいのか迷っている。

本当は何も考えずに、ただぼーっとしていたい。
ーーでも、みんなの役に立ちたい気持ちもあるから。
ここは、気持ちを切り替えて頑張ろう。


「ごめん、図書館だったよね。行こうか」

鞠と図書館に行くと、クラスの垣根を超えた勉強会参加者が、たくさんいた。

紫苑もいる。
隣りには、莉々。
いつもの美少女スマイルで話しかけている。

絵梨花は、喜ぶだろうかーー
それとも、悲しむだろうか。
少しだけ、寂しい気持ちになるのは、絵梨花の体の影響だろうか。


「橘さん、ここ、教えてよ」

「これはね……」

数学教師なので、数学しか教えられないかと思われるかもしれないが、大学時代の家庭教師バイトのおかげで、全教科を教えることができる。


「絵梨花ちゃんって、実は頭良かったんだね」

ーーごめんなさい。中身、絵梨花じゃないんです。


「教え方、上手だね。先生みたい」

ーー現役教師ですので。


「いつの間に勉強してたの?」

ーー八年前には、すでに。

喜んでもらえるのは素直に嬉しいし、みんなのお役に立てるのであれば、絵梨花もきっと喜んでくれるはず。


「橘さん、ちょっといいかな?」

学年総合一位の藤川くんが、離れた所から手招きする。

「何ですか?」

藤川くんは、生徒会長でありバスケ部キャプテンという、文武両道系イケメンだ。
背が高くてガタイもいいから、近づくと少し圧を感じる。

「橘さんって、明るくなったよね」

「ははっ、みんなにそう言われます」

ーーだって、中身が違いますから。


「今頃、橘さんの可愛さに気付いたよ」

「……それは、どうも」

ーー絵梨花を褒めてくれたんなら、ありがとね。


「兄と区別するために、名前で呼んでもいい?」

ーーは?
どんだけ女にモテるのか知らないけど、馴れ馴れしいな。


「いやぁ〜、どうなんでしょ」

バッサリ斬り捨てると角が立ちそうなので、とりあえず苦笑いで返す。
察して下さい。


「絵梨花、俺と付き合わない? 俺、頭いい子が好きなんだよね」

ーーもう呼んでるし。
許可してないのに、呼んでるし。


「いやぁ、私に藤川くんは、もったいないですぅ」

ーーていうか、私、絵梨花じゃないし。
もうすぐ消えるし。
これだけYESと言わないんだから、察して下さい!


「いいじゃん、付き合おうよ」

ーー近い!
いつの間にか、両手で壁ドン体勢になってる。
逃げ場がない。

「あの……困りまーー」