いつか、桜の季節に 出逢えたら

二月になり、保健室登校からクラス登校へ移行した。

実力テストの結果からか、勉強を教えてと声が掛かることが多くなった。
もちろん、休み時間に友達と話したり、お昼休みにはみんなでお弁当を食べたり、充実した毎日を過ごしている。

学校って、こんなに楽しかったんだな。
勉強に、恋に、部活に、みんなキラキラしていて、これが青春というものなのだろうか。

なんとなく他人事のようにも思えるが、私は学校という空間が、割と好きらしい。
むしろ、好きになったーーというべきか。


クラスの様子をぼんやり眺めていると、最近、仲良くなった小出(こで)(まり)が、話しかけて来た。

「絵梨花ちゃん、もうすぐバレンタインだね。今年はどうするつもりなの? 紫苑くんのチョコ」

唐突に言われたから、飲んでいたお茶を吹き出してしまった。

「は? 兄なんだから、チョコなんてあげないよ?」

鞠は、いたずらっぽく無邪気に笑う。

「あ、忘れてるんだったよね、ごめん。絵梨花ちゃん、昨年は紫苑くんへのチョコ配達人みたいになってたんだよ」

ーーあ、そういうことね。
うちのモテ兄貴に直接渡せないチョコが、私の方に集まってくるってわけね。
はい、理解しました。

「まったく、自分で渡せばいいのにねぇ……」


*****


そして、バレンタイン当日がやってきた。


朝っぱらから、帰る直前まで

「橘さん、お願い、紫苑くんに渡して」
「紫苑くんへ、お願い」
「私もお願い」
「私も」
「橘先輩に、お願いします」

ーーいや、想像以上に来るし。
違うクラスどころか、違う学年からも来るし。
どうなってるのよ、これは。

去年の絵梨花は、何を思いながら受け取っていたのだろう。


「ほら、すごいでしょう? 紫苑くんは。昨年も紙袋パンパンに持って帰ってたよ、絵梨花ちゃんが」

鞠が、ニヤニヤと得意気に笑っている。
面白がっているのか、わざわざ紙袋まで用意してくれていた。

今年は、二袋にもなった。
昨年よりも増えてるってことじゃん。
両手にかかる重量感がすごい。

「本当に、自分で渡せばいいのに!」


なんだよ。
女子と仲良くしようともしてないのに、基本塩対応なのに、なんでこんなにモテるんだよ。
ほとんど話したこともないでしょ、この子たち。

顔か? 顔だけか?
いや、顔以外にも良いところはあるけども!


靴箱まで行くと、紫苑が待っていた。
相変わらず涼しい顔しやがって。

「ちょっと、紫苑くん! 君へのチョコなんだから、持って!」

チョコでいっぱいになった二袋を、手渡す。

「……え〜……」