いつか、桜の季節に 出逢えたら

ここは私の部屋のはずなのに。
どうもしっくりこないのは、私が絵梨花とは別人格だからだろう。

ベッドに寝転がると、いつも目につく。
ヘッドボード辺りに積まれた、ぬいぐるみの山。
私に、こんなファンシーな嗜好はない。

たまにぬいぐるみの山が崩れることがあるので、元の位置に戻してあげる。
すると、コアラのぬいぐるみの下に、何やらコードが見えた。

ーーん? 何これ。

コードをたどると、ベッドと壁の隙間にコンセントにプラグが刺さっている。
もう一方をたぐると、ヘッドボードと壁の隙間に続いている。
その先に、なんとノートパソコンが挟まっていた。

偶然にこんなところに入り込むとは思えない。
意図的に隠しているのだろうか。

壁との隙間からパソコンを引っ張り出し、そっと開いてみる。
スマホと同じで、指紋認証でログインできた。

トップには、画像や書類のファイルが数個あるだけ。
ブラウザを開くと、とあるブログサービスのブックマークを見つけた。

ブログといえば、誰かに見せるために書くと思うのだがーー
絵梨花が書いたと思う記事の多くは、非公開のままになっている。

誰にも見せるつもりはないーー秘密の日記ということなのだろうか。
だとすると、パソコンを隠していたことにも、辻褄が合う。

高校入学と同時に始まったそのブログは、その日の出来事や楽しいことばかりの普通の日記のようで、対外的に見せても問題ないようなキラキラした内容だった。
絵梨花の、普通の女の子としての記録が、そこにはあった。

ーーただ、現在に近づくにつれ、非公開設定の記事が増えていった。

「わかってる。家族でなかったとしても、振り向いてくれないことなんて」

「また、嫌な態度を取ってしまった」

「好きになってもらえないのが辛い」

「新しい彼女、可愛かったな……」

「莉々からのLIME、だいぶ嫌になってきた」

「また、お父さんとお母さんに八つ当たりしてしまった」

「なんかもう、疲れた……」


ーー絵梨花は、紫苑のことが好きだったのだ。

好きになってもらえるわけがない、だったら嫌われようーー
と、あえて距離を置こうとしていた。


絵梨花、何やってるんだよ。
報われない想いを抱えて一緒に暮らすのが辛いのはわかるけど。
嫌われようとするなんて、それは違うよ。
両親に八つ当たりしたのも、ただの自己防衛でしかない。

絵梨花は、本当に不器用な子だな。
みんなの気持ちを考えると、胸が痛い。