いつか、桜の季節に 出逢えたら

母は語り始めた。
父は生活力が乏しく、実母が亡くなった後、家事の全てを小学生の私が担っていたという。
出張が多く、娘を一人きりで家に残すわけにもいかなかった。
これから思春期になる女の子を育てることにも、難しさを感じていた。

母は、父と同じ職場だった。
自分も夫を早くに亡くし、境遇が似ていた。
不器用ながらも懸命に娘を育てようとする父に、好意を寄せていったのだという。

お互い、元配偶者を忘れたわけではない。
この人となら家族になれると思い、子どもたちの了承を得て、再婚ーーという流れだった。

最初は問題がなかったのに、ある時期から、急に私が距離を置くようになった。
次第に、不満を口に出すようになる。
父には「実母を裏切った。再婚なんかしてほしくなかった」
母には「私と実母から父を奪った。家族になんかなりたくなかった」

もともと口数の少ない大人しい私が、初めて表出した気持ちがこれだったのなら、両親にとっては衝撃的だったろう。

ーーこの話を聞いても、いまいちピンと来ない。
数年来、ずっと良好な関係だったのに、急にそんなふうに思うだろうか。
最初から不満があったのなら、そもそも再婚に同意していない。
気持ちを出すのが、遅すぎる気がする。

嫌だったとしても、高校卒業まであと一年、我慢すればいいだけなのに。
遠くの大学に進学すれば、家から出られるのだし、なぜ今さらーー。


「……大丈夫だと思ったから、家族になったはずなのに。絵梨花ちゃんに我慢させていたと思うと、お母さんもお父さんも、申し訳ない気持ちでいっぱいよ……」

母の目に、涙が溢れて止まらない。
逆に申し訳なくて、そんな母の背中を黙ってさする。

「だから、絵梨花ちゃんの記憶がないとわかった時、もう一度仲良くなれるんじゃないかって、記憶なんか戻らなくていいのにって思ったの……ごめんね」

なぜ、こんなに優しい人を悲しませるようなことをしたのだろう。
私には、自分のしたこととは思えなかった。
絵梨花本人に対して、憤りすら感じる。

「お母さん、話してくれてありがとう。過去の私が何を思っていたかはわからないけど、今の私はみんなのことが好きですよ。思い出したとしても、この気持ちは変わらないと思います。二重人格っていうのも、勘違いかもしれないし、気にしないで下さい」

「……でも……」

「あ、そうだ! この前、紫苑くんから、毎年お花見をするって聞きましたよ? 今年は、みんなでお花見しましょうよ」

優しい母の苦しみが、少しでも和らげばいいと思った。

「絵梨花ちゃん……ありがとう……」

母は涙を浮かべながらも、いつもの優しい笑顔で微笑んだ。