僕の愛しい泥棒娘

これで思い残すことは何もない。

サリーヌには落ち着き先が決まったら知らせ
ると書いておいた。

こういう形で隣国に少しずつ移しておいた資
金が役に立つとは思っていなかったが、おか
げで隣国に行く事も心配はなかった。

そこからまたほかの国に行く事になるかもし
れないが、それは行ったときに決めればいい
と思っている。

ただ、アウスレッドに会えなくなるのが悲し
い。自分で決めた事なのだ泣いていては不義
理をする皆に申し訳ない。

ユミアは気持ちを切り替えて大きな鞄を一つ
持って船に乗るために、乗り合い馬車の乗り
場に向かった。

その頃ダミアサール公爵家ではメアリーヌが
公爵を前に火を噴いていた。

「あなた、ユミアさんになんて言ってきたの
私とレッドの前でもう一度言ってごらんなさ
いよ」

「えっ、いやレッドには第二王女との婚姻の
話が、あるから…」

「あるから、何よ。まさか、身を引けなんて
言わないわよね。そんな無慈悲な父親じゃな
いわよね。もしそんなことをユミアさんに言
ってるんだったらすぐに実家に帰らせてもら
いますからね」

「いや、だってバンがどうしてもレッドを
王女の婿にというんだ。僕はあいつに借りが
あるからさ、レッドにしても悪い話じゃない
と思って…」

とだんだん父親の声は小さくなっていって、
額に汗をびっしり書いている。