僕の愛しい泥棒娘

ユミアは唖然とした顔でメアリーヌ様を見つ
めた。そこまでではないが半分は当たってい
る。

「長くなるけど私の話聞いてくれる?」

そう言ってメアリーヌ様は離し始めた。

「私もね、公爵と結婚した時、同じような事
思っていたのよ。私達は彼がお忍びで王都を
散策している時に出会ってね。たまたま貴族
に泥はねをしてしまった小さな女の子を、庇
って貴族の平手打ちを浴びてしまった時に、
“これで気が済みましたか?私はアズナール
男爵家の長女メアリーヌです。まだお怒りが
収まらないようでしたら、いつでもお越し下
さい。この子は故意にあなた様に泥をはねて
しまった訳ではありません。こんなに謝って
いる子を許せないなんて、貴族としてその狭
量は恥ずべきですよ。今度この話を社交界の
お友達に聞かせてやりたいのであなたのお名
前を教えて下さい“って毅然とした態度で言っ
てやったら、その貴族は大慌てで逃げて行っ
たの。それを彼が見ていてね、そのすぐ後で
一目ぼれしたって言ってきたの。私は変な男
だと思って相手にもしなかったのよ。そした
ら次の日から手紙と花束が、実家に送られて
きて、手紙にはいつも”ぜひ一度会いたい”と
書かれていたの。面倒だから放って置いたら
もう花で家中が埋まってしまうくらいになっ
てしまって、親にお願いだから一度会ってき
っちり断るなり、何なりして来てくれって、
泣きつかれたの。だから、一度会いましょう
っていつもお花を持ってきてくれる侍従に伝
えたら、次の日には家にやってきたのよ。
もう本当にうれしそうな顔をしてにこにこし
ているの。私が何を言っても、うんとしか言
わなくてただ蕩けそうな優しい目で見つめて
いるだけなのよ。あんな人初めてだったわ。
それから毎日のようにやってくるの朝早くに
ね。色んな贈り物を持ってくるの。
宝石は絶対受け取らなかったから、主にお菓
子が多かったわ。でも同じものは2度は持っ
てこないのよ、時々は王宮に咲いている美し
いバラを持ってきてくれたわ。だから、根負
けしたの。そしたら王太子だっていうから、
それでは結婚は無理なので私は王妃になんて
なれる器じゃないし、なるつもりもなかった
し、そう言って断るとそれから1週間はこな
かったから諦めたんだと思ったの。でもね、
次に来た時には僕は王太子の座を降りて、
王位継承権を放棄したからダミアサール公爵
になったので、結婚してくれるよねって、い
つものようににこにこ笑って言ってきたの。
公爵になったと言っても男爵家とは釣り合わ
ないのよ。だから王家からは伯爵家か侯爵家
の養女となり2~3カ月したら結婚するように
と言ってきたの。
だからあの人に行ったのよ“私は貧乏男爵家
の長女でメアリーヌよ。それ以上でもそれ以
下でもないわ。そういう私と結婚したいなら
お受けします。でも知りもしない伯爵家や侯
爵家の養女になってまで、あなたと結婚する
気はありません“って言ったの、もう面倒で
隣国に逃げようと思ったのよ。王都からは船
で1日あれば隣国に行けるでしょう。そこで
働きながら一人で暮らしていこうと思ったの
何もできないくせに大胆でしょう」