僕の愛しい泥棒娘

「だから今日もワイナリー家に忍び込みしな
いといけなくなったの。この偽のテイアラと
本物を交換して誓約書の写しを作ってこなけ
ればいけないのよ。紙と鉛筆と携帯用の灯り
を用意してほしい私は夕飯を食べていつもの
ように支度しないと、昨日使った侵入用の靴
はまだ乾いてないよね？」

「ううん、さっき見たら乾いてた。でももう
これで最後にしないとね。ユミ姉ちゃんが捕
まればこの店も孤児院もめちゃくちゃになっ
てしまうわ」

「大丈夫よ。訳あり公爵様なんだから、捕ま
ったら殺されるだけよ。絶対に自分の身元は
口を割らないわ。何をされてもよ。だからそ
の時はサリーヌあなたがこの店を守って孤児
院も守るのよ。いいわね」

「いやよ。ユミ姉ちゃんがいなくなったら
私は生きていけないもん」

「何情けないこと言ってんの。この家業を始
めた時に約束したでしょう。私に何かあった
らあとはサリーヌがきちんとすべてやってい
くって決めたよね。思い出してやれるよねサ
リーヌ、お願いよ」

サリーヌは泣きながらも力強く頷いてくれた
だから、ユミアは安心して夜に溶け込む事が
できるのだ。

ユミアはもし捕まってひどい事をされそうに
なったら、思い切って毒を煽るつもりで、手
袋の中とシャツのポケットに毒を入れている
のだ。

侵入時に使う靴は、前世の記憶を思い出して
サーカスで使っていた、地下足袋のような脚
にぴったりと付く軽い物を手作りしているの
だ。