「気安く私に話しかけないでくれる?」


そう言って差し出された美羽の手を乱暴に払い叩くのが、この世界での悪女・乃愛だ。

…だけど、今の乃愛は違う。私だ。


「…宝槻乃愛。よろしく」


頬杖をつきながら、それだけ言うとふいっと顔を背ける。

クラスメイトたちがわかりやすく動揺しているのが背中を向けていてもわかった。

だけど、私ですら動揺している。


…な、なに今の!「宝槻乃愛。よろしく」って!

スカした中学生男子じゃないんだから、もっと言い方とかあったでしょ!

自分に自分でツッコミを入れながら、赤くなっているであろう顔を片手で必死に隠す。


乃愛になったからと言って、横暴でわがままなこの性格のままいるほど私は馬鹿ではない。

この世界の悪女である乃愛は、ヒロインをいじめるだけいじめて結果的に残っているのは寂しい孤独な未来だけ。

それも今までヒロインをいじめてきた分、ヒーローたちから復讐かのようにこの学校を追い出されるのだ。

だけど、今の私にとってはそんなのたまったもんじゃない。

もしも、私がこのまま乃愛としてこの世界で生きていかないといけないとしたら、乃愛の性格のままでいたら最悪な未来しか待っていない。