「今日からこのクラスの一員になります、綾瀬美羽です！よろしくお願いします」


可愛らしく微笑んだ美羽にクラスメイトたちは一気にざわつく。

九月中旬になり、ヒロインが転校してくるところから物語は始まる。

今がちょうどその時期なのだ。


「じゃあ綾瀬の席は…廊下側の空いてるところな」

「先生、私あそこの空いてる席がいいです！」


廊下側の空いてる席ではなくて、窓側から二列目の一番後ろ、私の隣の席を美羽はキラキラとした瞳で指差してきた。

その要求に担任はギョッとしたように目を見開いていて、クラスメイトにも一気に緊張の空気が漂ったのがわかった。

無理もない。

乃愛の席は入学してからずっと窓際の一番後ろの席、そして隣には誰も来させないでという乃愛のわがままな要望から隣の席には誰も座らないことが暗黙のルールとして存在していたから。



「いや、綾瀬、窓側じゃなくて廊下側で…」

「どうしてですか？あそこも空いてるからあそこでいいじゃないですか」


まるっきり担任の言葉なんて無視した美羽が軽やかな足取りで隣の席まで来ると、にこっと私に向かって笑顔を向けてきた。


「お隣、よろしくね。私、綾瀬美羽」