「きゃ…っ。ごめんなさい!急いでるの」


とりあえず教室に行くかと踵を返すと、目の前から来ていた男子生徒にぶつかってしまい咄嗟に謝る。

しかし顔なんて見ている余裕もなく、慌ててその場を去って教室に向かって走る。


「…ごめんなさい?」


だから、彼の小さく呟いた声なんて聞こえもしなかった。



乃愛に転生してしまったんだという現実はなんとか受け入れることができたけど、ここから現実にどうやったら戻れるかなんてわかるわけもなかった。

そもそも戻れるのだろうか?

これからこの先ずっと、私は乃愛としてこの世界で生きていくのかな?


「そんなの勘弁してよ…」


ため息をつきながら廊下を歩いていると、なぜかみんなが私を避けて歩いていることに気づく。

乃愛はこの学校ではかなり有名な悪女だから、無理もないだろう。

父親は有名企業の社長で、学校への寄付もたくさんしているため校長先生を含め、先生たちは誰も乃愛には逆らえない。

だから乃愛は堂々と悪女っぷりを披露することができていたのだ。