さっきの女子生徒がスカートを汚したことで乃愛がキレて、わざわざバケツに入っている水を頭からぶっかけ、彼女をみんなの前で何度も叩いていじめる。

それが私が乃愛の性格の悪さを表現するために書いた冒頭の一部分だ。

そして今、その乃愛が目の前にいる。…いや、私が乃愛になってしまった。


「なんなの？私、どうなっちゃってるの？」


自分の本当の声よりもやや低めの声、喋るたびに動く乃愛の薄くてピンク色の唇、ナチュラルなメイクだけで成り立つこの顔面。

間違いない。これが私の思い描いていた宝槻乃愛だ。

事故で死んだかと思ったら、まさか自分が書いた小説のキャラクター、しかもよりによって悪役に転生してしまった…？


「そ、そんなぁ…っ！」


冗談じゃない。

この転生してしまったという現実ですらも受け入れ難いというのに、よりによって世界一の悪役である乃愛になってしまっただなんて。

この先一体どうすればいいのだ。

この世界に、乃愛の味方は誰一人いないというのに…。


「バッドエンド確定の運命を生きなきゃいけないの…？」


はあとため息をつくと同時に、チャイムが鳴り響き慌ててトイレを出る。

まるで体が本能的に教室に向かおうとしているかのように無意識に。