「またやってる…」

「かわいそう…。あの子、転んで宝槻(ほうつき)さんのスカートに少しだけ炭酸かけちゃっただけなのに、バケツの水ぶっかけられてみんなの前で公開処刑されて、災難だね…」

「助けたいけど…目つけられても困るしねぇ」


ヒソヒソと周りから注目されていることに気づき、辺りを見渡す。

廊下の真ん中で目の前にはびしょ濡れになって泣きながらうずくまっている女子生徒。

そのそばには転がっているバケツと炭酸のペットボトル。


…この場面、知ってる。


「…どうなってんの?」


逃げるように女子トイレに駆け込み、鏡にうつる自分の姿を見て信じられない思いで自分の顔に触れる。

魔女のように漆黒のサラサラな長い髪の毛、キリッとした瞳は睨みつけられたら身動きが取れなくなるほど鋭く、陶器のような肌や一つ一つ整っているパーツは完璧なくらいに美しい。

“魔性の女”とはまさにこのことだ。

絶世の美女でありながら、性格の悪さも世界一。

それがこの物語の悪役、宝槻乃愛(のあ)だ。

今目の前にいる彼女こそが、私が書いて生み出した悪女、乃愛だった。