この世界のヒーローとは関わらないと決めたばかりだけど、目の前で起きている出来事を無視できるくらい私は冷たくない。

そんな見え透いた嘘を、とでも罵られるかな…。

そもそも氷王子が私なんかに謝ることですらまだ信じられないのに。

一体私を油断させて、どんな言葉を浴びせてくるのだろう…。


「…やっぱり、おまえは悪女なんかじゃない。なんで今まで気づかなかったんだろう」

「…え?」

「目の前に天使がいたことに」

「…はい?」


え、なんだろう、今の幻聴?

と思って顔を上げると、氷王子と言われているのが嘘かのように頬をほんのりと赤く染め、優しく微笑んでいる見たことのない顔をした宙がそこにいた。

…待って、私、熱でおかしくなったのかな?

幻聴に続き、幻覚まで見えるようになった…?

チラリと逸らした視線を再び宙に向けるが、変わらず私を熱い瞳で見つめてくる宙に耐えられなくなりすぐに目を逸らす。


「どうした?顔色が悪い気がするけど、もしかしてまだ辛いか?」


そっと優しく頰に手を添えられて顔を上に向かされ、思わずぎょっとする。