こんなこと、私は小説で書いていない。

美羽に嫌がらせをしている人がいるように、また小説にない出来事が起こっているんだ。


「うう…っ」


ポロポロと泣いている光莉にハッと我に返る。

光莉は宙に心配をかけないように乃愛にいじめられていても決して助けを求めることはしなかったし、それを感じさせないほど宙の前では笑顔で明るく振る舞っていた。

しかし決して光莉は強いわけではなく、部屋やお風呂で一人涙を流すといった弱い部分を隠していたのだ。

きっと今だって、我慢していたけど何が起こるかわからない恐怖で押しつぶされそうになっているのだろう。

私だってこの先の展開がわからなくて怖い。

私はヒロインではないから、光莉を助けてあげられる確証なんてどこにもないのだ。


「…!」


泣いている光莉になんとか近づき、前で縛られている手で光莉の手を握りしめる。

口が塞がれているため声は出せないけど、“大丈夫”という念を込めて光莉に頷く。


「お待たせー。お楽しみのお時間だよ」


重たそうな扉がぎいっと開けられ、ニヤニヤと笑っている男が中に入ってきた。