「気安く私に話しかけないでくれる?私が黙ってるからって調子に乗ってるけど、このクラスのみんなは私がどういう人か忘れてるわけ?次の標的はいつだって決められるんだけど」

「美羽ちゃん、次移動教室だから行こ!」

「宝槻さん、ごめんなさい!転校生にちゃんと言い聞かせておくから…!」


戸惑っている美羽を慌ててクラスメイトたちが引っ張っていき、みんな一斉に私から視線を逸らすと移動教室の支度を始めた。

これでいい。これから先誰かをいじめることなんてもうしないけど、みんなが私に怯えてくれていた方が私に絡んでくる人だっていないだろう。

このまま何事もなく毎日が過ぎればいい。



「…あ」


廊下を一人で歩いて移動教室に向かっていると、向こう側から宙が歩いてきた。

思わず声を漏らしてしまったのは、きっと乃愛の本能みたいなものだろう。

たしかに宙は人目を引くほど整った顔立ちをしているけど、私にとっては別に大したことはない。

「イケメンだなあ」とは思うけど「好きだなあ」とは思わない。

特に何を言うわけでもなくその横を通り過ぎようとすると、突然宙に腕を掴まれた。


「え、なに…?」


ぎょっとしながら宙を見上げると、宙は私を鋭く睨みつけていた。