「薫くん、こんなところにいた!」

「ちょっと、悪女…じゃなくて、宝槻さんに絡んじゃダメでしょ!」

「行くよ薫くん!」


薫の取り巻き女子たち三人組がわっと中庭にやってくると、あっという間に薫を回収して行ってしまった。

その光景に唖然としていると、薫は引っ張られていきながらもにこやかに私に手を振っていた。

…珍しいな。乃愛に対してまで愛想を振りまいてくれる人がいるなんて…。

まあそれもきっと、今だけなんだろうけど。


「乃愛ちゃん!」


ドクンっと反射的に心臓が反応した。

今一番、会いたくない人…。


「急に飛び出して行っちゃうから心配したよ。みんなから聞いたよ。乃愛ちゃんが悪女って呼ばれてること…。だけど、みんなは乃愛ちゃんのことを誤解してるだけだよね?」


握りしめた拳が震え、真っ直ぐ私を見てくる美羽を見ていられなかった。


「だって私に挨拶を返してくれたでしょ?そんな乃愛ちゃんが私には悪女になんて見えないよ」


どこまで美羽は純粋で汚れを知らない聖女なのだろう。