…そんなのは嫌だ。

そうと決めたら、悪女という立ち位置からは退いて、ヒロインとヒーローとも離れて、平和で平凡に生きていこう。

そう思ったのに、家に引きこもって小説しか書いていなかったせいで友達一人いない私にとって、誰かと会話をすることすら久しぶりすぎてあんな厨二病みたいな返答しかできなかった…!

いい大人して、恥ずかしすぎる…。


「乃愛ちゃん、よろしくね!」


私の心の中なんて知りもしない美羽は、振り向かなくてもわかるほど明るい笑顔を浮かべながら、同じく明るい声でそう投げかけてきた。





放課後になる頃には、美羽はもうずっと前からこのクラスにいたかのようにみんなと打ち解けていた。

一人ぼっちの私とは対照的に、みんなに囲まれながら眩しく笑う彼女はまるで聖女そのもの。

その見た目からして多くの人を惹きつけていた。


「なんかさ、不気味だよねぇ」

「ねー。あの宝槻さんが、人気者の転校生に何もしないだなんて」


ホームルームが終わり、トイレに行ってから帰ろうと個室に入ると、しばらくしてそんな声と共に女子生徒が二人トイレに入ってきたようだった。

それも同じクラスの。